活版印刷・・活字を拾い、一つ一つ並べて版を組み、インキを塗り紙に転写し印刷‥。今の情報化が進んだ時代には超アナログですが、刷られた紙の凹み具合、かすれ、にじみや揺らぎに、文字の存在と表情さえ感じさせられます。
こういうの好きです。ほっとすると言うか、人の血が通っている印象を受けます。そんな活版印刷の世界を通して、不器用に迷いながらも前向きに生きていく人々が描かれる連作短編集でした。
ほしおさなえさん初読みでしたが、「活版印刷三日月堂」シリーズは6巻も出ているんですね。
一話ずつ、三日月堂を訪れたお客さんの視点で物語が描かれ、その人たちが三日月堂を訪れ、依頼した以上の完成品と〝何か〟を得て、少し前向きになっていくという構成です。
名前入りレターセット、ショップカード、コースター、栞、招待状など、味わいのある活版印刷による作品が目に浮かびます。想像して思わず、「それ、私にも作ってー!」と言いたくなります。
続編は未読で判らないのですが、各話に登場する多くの人(客)が満足し、救われるのでしょう。しかしそれだけでなく、大事なものを全て失い、自分が育った家に帰って活版印刷所を再開させた店主の弓子、彼女自身が再生する物語がもう一つのポイントなのかなと思いました。
古いものを活かして輝きを与えることは、傷付いた人を再生させる象徴でもあるのかな、と感じました。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年6月6日
- 読了日 : 2023年6月6日
- 本棚登録日 : 2023年6月6日
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