人類の深奥に秘められた記憶

  • 集英社 (2023年10月26日発売)
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本棚登録 : 260
感想 : 19
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1938年、デビュー作『人でなしの迷宮』でセンセーションを巻き起こし、「黒いランボー」とまで呼ばれた作家T・C・エリマン。しかしその直後、作品は回収騒ぎとなり、版元の出版社も廃業、ほぼ忘れ去られた存在となっていた。彼は一体何者だったのか?現代のくすぶる若手小説家ジェガーヌが、その軌跡を追い求める。


『人でなしの迷宮』という一冊の本をめぐって錯綜する物語。疾走感があり引き込まれて読んだ。

複数の語り手。日記、手紙、メール、書評、ルポタージュ。ミステリ、成長物語。パリ、アムステルダム、ブエノスアイレス、ダカール。第一次世界大戦、第二次世界大戦、内乱や民衆蜂起。

ウセイヌ・クマーフが娘であるマレーム・シガに、言葉によって呪いをかけるさまは迫力があって強く印象に残っている。
コンゴ出身のムジンブワが故郷に戻ってから、主人公ジェガーヌにあてたメールには打ち震えた。

さいごは、脱植民地主義のその先へ。主人公と書き手の姿を重ねる。開かれていると感じた。

そして、情景描写が美しい。
“右手には、黄昏がスローモーションで撮影されたみたいにゆっくりと広がっていく。まず地平線の鋭い刃先が太陽の虹彩、まさにその真ん中を、ブニュエルの映画のように切り裂いた。光の眼が切り裂かれたところから鮮紅色の海があふれ出し、そこに藍と青、ほとんど黒に近い深い色の輝きが散らばり、やがてそれが大きくなって、天空の身体の上に巨大な腫瘍のようにふくらみ出す。湖の水面にひとひらの葉が落ちるように、夜がやさしく世界の上に落ちてくる。”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月30日
読了日 : 2024年1月28日
本棚登録日 : 2023年12月7日

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