人類の深奥に秘められた記憶

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087735253

作品紹介・あらすじ

【ゴンクール賞受賞作】なぜ人間は、作家は、“書く”のか。根源ともいえる欲望の迷宮を恐ろしいほどの気迫で綴る、衝撃の傑作小説!セネガル出身、パリに暮らす駆け出しの作家ジェガーヌには、気になる同郷の作家がいた。1938年、デビュー作『人でなしの迷宮』でセンセーションを巻き起こし、「黒いランボー」とまで呼ばれた作家T・C・エリマン。しかしその直後、作品は回収騒ぎとなり、版元の出版社も廃業、ほぼ忘れ去られた存在となっていた。そんなある日『人でなしの迷宮』を奇跡的に手に入れ、内容に感銘を受けたジェガーヌは、エリマン自身について調べはじめる。様々な人の口から導き出されるエリマンの姿とは。時代の潮流に翻弄される黒人作家の懊悩、そして作家にとって “書く”という宿命は一体何なのか。フランスで60万部を突破、40か国で版権が取得された、2021年ゴンクール賞受賞の傑作。[著者プロフィール]モアメド・ムブガル・サールMohamed Mbougar Sarr1990年セネガルのダカールに生まれ、パリの社会科学高等研究院(EHESS)で学ぶ。現在はフランスのボーヴェ在住。2014年に中篇小説『La Cale(直訳:船倉)』でステファヌ・エセル賞を受賞し、2015年『Terre ceinte(直訳:包囲された土地)』で長篇デビュー、アマドゥ・クルマ文学賞とメティス小説大賞を受賞した。2017年『Silence du choeur(直訳:コーラスの沈黙)』でサン=マロ市主催の世界文学賞を受賞。2021年、4作目にあたる本書はフランスの4大文学賞(ゴンクール賞、ルノードー賞、フェミナ賞、メディシス賞)すべてにノミネートされ、ゴンクール賞を受賞した。邦訳作品に『純粋な人間たち』(平野暁人訳、英治出版、2022年。原書は2018年)がある。[訳者プロフィール]野崎歓(のざき・かん)1959年新潟県生まれ。フランス文学者、翻訳家、エッセイスト。放送大学教養学部教授、東京大学名誉教授。2006年に『赤ちゃん教育』(青土社)で講談社エッセイ賞、2011年に『異邦の香り――ネルヴァル『東方紀行』論』(講談社)で読売文学賞、2019年に『水の匂いがするようだ――井伏鱒二のほうへ』(集英社)で角川財団学芸賞受賞。ほか『無垢の歌――大江健三郎と子供たちの物語』(生きのびるブックス)など著書多数。訳書に、ジャン=フィリップ・トゥーサン『浴室』『カメラ』『ためらい』(以上集英社文庫)、サン=テグジュペリ『ちいさな王子』、スタンダール『赤と黒』(以上光文社古典新訳文庫)、ボリス・ヴィアン『北京の秋』(河出書房新社)、ミシェル・ウエルベック『素粒子』『地図と領土』(以上ちくま文庫)、同『滅ぼす』(共訳、河出書房新社)など多数。

感想・レビュー・書評

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  • 1938年、デビュー作『人でなしの迷宮』でセンセーションを巻き起こし、「黒いランボー」とまで呼ばれた作家T・C・エリマン。しかしその直後、作品は回収騒ぎとなり、版元の出版社も廃業、ほぼ忘れ去られた存在となっていた。彼は一体何者だったのか?現代のくすぶる若手小説家ジェガーヌが、その軌跡を追い求める。


    『人でなしの迷宮』という一冊の本をめぐって錯綜する物語。疾走感があり引き込まれて読んだ。

    複数の語り手。日記、手紙、メール、書評、ルポタージュ。ミステリ、成長物語。パリ、アムステルダム、ブエノスアイレス、ダカール。第一次世界大戦、第二次世界大戦、内乱や民衆蜂起。

    ウセイヌ・クマーフが娘であるマレーム・シガに、言葉によって呪いをかけるさまは迫力があって強く印象に残っている。
    コンゴ出身のムジンブワが故郷に戻ってから、主人公ジェガーヌにあてたメールには打ち震えた。

    さいごは、脱植民地主義のその先へ。主人公と書き手の姿を重ねる。開かれていると感じた。

    そして、情景描写が美しい。
    “右手には、黄昏がスローモーションで撮影されたみたいにゆっくりと広がっていく。まず地平線の鋭い刃先が太陽の虹彩、まさにその真ん中を、ブニュエルの映画のように切り裂いた。光の眼が切り裂かれたところから鮮紅色の海があふれ出し、そこに藍と青、ほとんど黒に近い深い色の輝きが散らばり、やがてそれが大きくなって、天空の身体の上に巨大な腫瘍のようにふくらみ出す。湖の水面にひとひらの葉が落ちるように、夜がやさしく世界の上に落ちてくる。”

  • « La Plus Secrète Mémoire des hommes », de Mohamed Mbougar Sarr : le feuilleton littéraire de Camille Laurens
    https://www.lemonde.fr/livres/article/2021/08/26/la-plus-secrete-memoire-des-hommes-de-mohamed-mbougar-sarr-le-feuilleton-litteraire-de-camille-laurens_6092410_3260.html

    ゴンクール賞作『人間の最奥に秘められた記憶』について語る | フランス文学|日本の学生が選ぶゴンクール賞
    https://onl.sc/a6cJ5i4

    純粋な人間たち モハメド・ムブガル=サール著 - 日本経済新聞(2023年1月14日会員限定記事)
    https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67551180T10C23A1MY6000/

    人類の深奥に秘められた記憶/モアメド・ムブガル・サール/野崎 歓 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-773525-3

  • タイトルと出だしで、ついていけないかも…と不安に思っていたのだけど、すぐに止まらなくなった。
    二転三転、どんどん本の印象が変わっていく。
    作家・創作論、マジックリアリズム、ミステリー、青春、歴史……。
    そんなにジャンル詰め込めます?!という感じなのだけど、まるでぎゅう詰めではなく余裕があるのがまたすごい。
    面白かった!

  • セネガル出身の若い作家で、ゴンクール賞受賞ということで読んでみた。
    とにかく饒舌。はじめはアフリカの作家がいかに白人世界で型に嵌め込まれて扱われているかという文学論もあり、物語は進むのかと不安になったが、シガ・Dの父の語りから面白くなった。
    セネガルの伝統・文化・宗教、現在の政治運動、ヨーロッパに住むアフリカ人文学者は何を書くべきかといった思想的な要素だけでなく、場所もパリ、セネガル、アムステルダム、南米と移動するし、時代は第一次世界大戦前から現在までで、複雑で広範である。語りも、語り手(現代のセネガル人若手作家ジェガーヌ)、ジェガーヌが尊敬する女性作家シガ・D、シガ・Dの口を通した父ウセイヌ、フランス人の文学研究者、ハイチの詩人の語り、と二重三重の構造もある。それをよくまとめあげたなと、その力量に関心する。
    物語としても面白かった。(映画になったら文章自体の饒舌さが押さえられて、構造が視覚化されてすっきりした話になりそう。)
    饒舌な語り口は好き嫌いがあるかもしれないが、一読に値する作品だと思う。
    ただ、南米のマジックリアリズムに出会った時ほどの衝撃はなかった。あれは本当に度肝を抜かれたし、その語り口に夢中になったが、これは、ある意味ヨーロッパ的な理性をもって語られていた印象。アフリカとヨーロッパのハイブリッドという感じ。

  • 鴻巣由紀子さんが絶賛していたのとタイトルに惹かれ、さらに(覚えたばかりの)ゴンクール賞受賞作だというので読んでみることに。本書の面白さは語り手が変わる度に視点を覆される驚きとともに充分伝わってくるのだが、私にフランスとセネガルの関係や南米文学の基礎知識がもう少し有ればもっといろいろな仕掛けが楽しめたはず‥。不勉強だった自分が情けない!解説を読んで、著者の他作品にも興味が湧いた。

  • 物語や取材内容や批判、人は書きたがる。何かを表現する為に書く、或いは描く。一つの作品だけで、作者そのもの全てが理解出来るのか。内容がどれだけ素晴らしくとも、肌の色、人種、性別などの一部分だけでも、誰かの批判の対象になる。女性がこれ程までに精密に男性の荒々しい世界を書くとは、とか男性なのに女性の心の内をこんなにも表現出来るなんて、とか。そういう賞賛のされ方ではなく、ただこちらは書きたいから書いただけなのに、時に世間は作者の思いとは裏腹の賞賛を浴びせる。そういうのがエリマンには許せなかったのか。色々な作品の一部を剽窃するにせよ、あからさまな物は使えないし、それを上手くつなぎ合わせるのも一種の才能ではある。だが、ここまで的外れな賞賛や批判をした人間が次々と亡くなっていると、何だかツタンカーメンの呪いにも匹敵する力を持っていたのでは?と思わせる。しかしそれもまた、私が黒人に持っている無意識な偏見なのかもしれない。黒人だから何かそういう超自然的な力を持っているだろう、という類の。一つの作品を世に出せば、その偏見や誤解を払拭することになるのかもしれない。だが、どうしたって、”黒人なのに”私達と同じレベルの文学作品を書くことが出来るのか、という偏見は根強く残っていたりする。私達が日本語がやたら達者な外国人を見て、どんなにその人が日本に長く住んでいようとお構いなく、”日本語お上手ですね”と褒めてしまうのと一緒のような。それでも、人は書く。ただ書きたいからかもしれないし、注目を浴びたいがためかもしれない。書くこと、文学の迷宮の深みに迷い込んでしまった感覚を抱く一冊。

  • 1冊の小説というのが人生を変える、というのは極めてドラマティックなストーリーであるが、作品に魅せられるが如くその作品から逃れられないのだとしたら、それはドラマティックであるにしても一種の呪縛となる。本書は1冊の小説に魅入られた人間のストーリーである。

    セネガル生まれの作家が書いた1冊の小説がパリで話題になるも、剽窃の疑いを受けて作品は絶版となり、当の作家自体も行方をくらます。数十年後にその作品と出会って魅せられてしまった同じセネガル生まれの若手作家は、当の作家の行方を追って世界各地を移動し、最後にはセネガルの村へと辿り着いていく。

    その過程で小説を書くこと・小説を読むことについての思弁がそしてフランスとその旧植民地であるセネガルという2国の関係性を織り交ぜつつ描かれていくことで、次にどう展開するか予想がつかないストーリーと作家の思弁性のバランスが取れた作品として非常に面白く読み進めた。

  • ポストコロニアル文学というのでしょうか。アフリカ・セネガル出身の作家たちが、かつての宗主国であるフランスで評価されて称賛され、あるいは嫉妬を受け、顰蹙を買い、自分の居場所、自らのアイデンティティを求めて世界をさすらう物語。・・・と、ひと言では言い表せないほど濃密な構成の作品。
    芸術としての剽窃(パクリ)行為がどこまで許されるのか、という問題提起がいろいろな立場から考察されていて、大変考えさせられもしました。
    本好きにはたまらない傑作。一方で、作家のスキャンダルとか、文学論とか、文壇の楽屋話的な話には興味がないという人には、あまり刺さらないかも。

  • 若い作家が、昔夢中になった本がある。その本は賛否両論にさらされて、盗作疑惑の中で作家は消息不明、本は回収の上絶版となって読むことができない。
    が、ある晩、自分の母くらいの年齢の才能ある女性作家に遭遇し、その女性作家から問題の本を受け取る。
    本とその作者には何があったのか。
    アフリカをルーツとする作家がヨーロッパでさらされる偏見。エキゾチックな何かばかり期待される。それが苦痛だと書きながらも、本にまつわるエピソードはマジックリアリズムのようになる。矛盾していると思いつつ、主人公と共に作者の所在を追いかけ続けるが、行き着いたは答えは、当たり前の終わりだった。
    主人公と共に幻惑されて目が覚めるまでの感じが、すごく面白い。ウンベルトエーコの、昨日島を思い出した。

  • 第二の書までは完璧におもしろかった。死ぬほどあるパンチラインに痺れまくったありがとう

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モアメド・ムブガル・サールの作品

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