ニューイングランド州水族館を舞台としたタコと人間たちとの交流を描くノンフィクション。「研究対象への感情移入」は動物研究では通常タブーとされるが、本作では臆することもなく叙情的な文章が並ぶ。文学・哲学等からの引用も多く純粋に読んでいて楽しいが、タコに知性や意識をストレートに帰属させ、さらに友情の存在まで認めるのはさすがに著者自身の主観の投影が過ぎると思われ、やや興ざめ。しかし、タコが外殻を捨ててまで得た豊かな中枢神経系と運動可能性に触れれば、そのような「気分」が我々の中に生ずるのも無理はない話なのかもしれない。なお本書にも登場する哲学者ピーター・ゴドフリー・スミスによる「タコの心身問題(みすず書房)」が最近邦訳されている。意識や内的フィードバックシステムの成立について発生主義的な見地から考察した傑作であり、本書を読んで興味を持たれたら一読をお勧めしたい。
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- 感想投稿日 : 2019年6月9日
- 読了日 : 2019年6月7日
- 本棚登録日 : 2019年6月7日
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