「ホメロスの叙事詩は、色に関する記述に現在と奇妙に異なるところがある。古代ギリシャ人には、世界が我々とは全く違う色に見えていたのではないだろうか?」-ある英国政治家が抱いた奇想から、本書の楽しくも長い旅が始まる。紹介されるエピソードや実験はどれも興味深い上、語り口はユーモアに溢れ全く読む者を飽きさせない。また最近の海外の科学啓蒙書にありがちな、同じようなエピソードをだらだらと並べ、同種の主張を何度も繰り返すといった悪質なページ数の底上げもない。専門的知識は全く必要なく気軽に読める。
テーマは、大きく前半の「色彩語彙を決定するのは自然か文化か」と、後半の「言語は知覚や思考に影響するか」に分かれる。後半、最も興味を掻き立てられたのは「前後左右」を用いずに「東西南北」でのみ位置的情報を処理するオーストラリア先住民のエピソードだが(カーナビのノースアップで日常生活を送るなんて!)、そこで前半の議論の帰結である「自然は言語に制約を与えるが、その中で文化が裁量を持つ」という命題が再び立ち現れてるくる瞬間には興奮を覚えた。また、終章のテーマもまた「色」であり、読者を議論の連環に巧妙に誘う構造になっていることにも感心させられる。
エピローグも殺し文句が満載で、読後感良し。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
言語学
- 感想投稿日 : 2014年1月30日
- 読了日 : 2014年1月28日
- 本棚登録日 : 2014年1月6日
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