ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2006年3月17日発売)
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本棚登録 : 742
感想 : 88
5

高野秀行に外れなし。

ズバリタイトルそのものにもなっている、この本全体をパッケージしているその設定が秀逸を通り越して芸術。
ミャンマーの軍事政権を江戸時代の徳川幕府に、その中で公安的な役割を担う一団を柳生一族になぞらえている喩えが絶妙すぎてもう笑ってしまう。
もちろん笑っているばかりではなくて、ミャンマーという国を、行かずともできる限り理解するという点において、これほど分かりやすくためになる書籍もないのではないだろうか。
日本で普通に生活していても、「アウン・サン・スー・チー氏が自宅に軟禁されました」などというニュースを見聞きして「ほおー」なんて分かった風に無知のままうなずくことはあるが、その裏に潜む本当の事情や内実(その一部に過ぎないのかもしれないが)に、この本を読むことによって初めて触れた気がして、何だか目から鱗。
冗談じゃなく、学校などの教育現場で、東南アジアの歴史の一端を教える際の教材として使ったらいいんじゃないか、と思ったぐらい。
とてもじゃないが私はきちんと知っているとは言いがたかったミャンマーという国家が持つ特殊性が、とてもスムーズに脳内で咀嚼されたような気がする。

無論いつもの高野節も冴え渡り、ノンフィクションの体をとりながら綴られる物語は読者を惹きつける。

著者のあとがきも含め、現在進行形で混沌が止まないミャンマー国内の政情は、地べたに沿った彼の語り口だからこそ我々にもとても身近に感じられ、特に本編を読み終わる頃にはおそらくほとんどの読者が親近感を抱いているであろう三十兵衛ことマウン・マウン・ジョーを始め、愛すべき柳生一族の行く末は、高野氏ならずとも非常に気に掛かるところである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2009年12月23日
読了日 : 2008年5月15日
本棚登録日 : 2008年5月15日

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