書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房 (2017年6月22日発売)
3.30
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本棚登録 : 382
感想 : 32
5

人口が十億人にまで減少した未来の世界のニュー・アメリカ。
亡くなったミステリ作家の複生体(リクローン)は
図書館の書架を住処として
希望者に貸し出されるのを待つ、蔵書ならぬ「蔵者」だった。
ある日、コレットと名乗る女性がやって来て彼を連れ出し、
生前の著書の中に重要な秘密が隠されていると告げた……。

――というディストピアSFミステリ長編だが、
予想外に肩の力を抜いて楽しめた。
文明批判の一種には違いないけれども、
凝った「騙り」の多いこの作家にしては、すっきりしたストーリーで、
入門者にもとっつきやすいかもしれない。
随所で様々な先行作品のイメージを喚起する言葉選びが
なされているのも楽しい。

売れっ子ミステリ作家の若かりし日のコピーで、
顔は晩年のイメージに合わせて改変されているが、
内面はナイーヴな青年のままだし、
目覚めてからずっと図書館で暮らしているため世事に疎い、
賢いけれど非力な男が外に出て奮闘する様が愛おしい。

途中からバカSF風味(!)が入ってくるけれど、それも含めて面白い。
映画化したら、上質なサスペンスが後半でB級ホラーっぽくなって
脱力すること必至と見た(笑)。
ラヴクラフト「ランドルフ・カーターの陳述」をご存じの方は、

 Q.“こちら”と“あちら”で携帯電話での通話は可能か
 A. ドアが開いていて電波が届けば

といった問答でニヤリと笑うこと請け合い。

ところで、この作品中にも "island" "doctor" "death"の三語が
浮かび上がるのだなぁ。
『デス博士の島その他の物語』を再読したい……。

結末の主人公の選択は……どこの誰とも知れぬ「あなた」に向かって
この物語を綴るためだったのかもしれない、そんな気がする。

それにしても、80歳を過ぎても
こんなに瑞々しい小説を発表できる作家とは!
普通は年を取ると気力・体力が衰えるので、
アイディアが湧いても作品を完成させるのは――特に長編は――
厳しいと思うのだけど、驚嘆の至り、そして、惜しみない拍手を!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  英米語文学
感想投稿日 : 2017年7月2日
読了日 : 2017年7月2日
本棚登録日 : 2017年6月3日

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