澁澤龍彦初期小説集 (河出文庫 し 1-44)

著者 :
  • 河出書房新社 (2005年5月7日発売)
3.57
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本棚登録 : 280
感想 : 28
4

世田谷文学館『澁澤龍彦ドラコニアの地平』
http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4582286127
観覧後、既読作を読み返したくなって書棚を漁り、
Tasso再読祭(笑)。

昔、福武文庫から出ていた『犬狼都市(キュノポリス)』
収録3編を含む短編集。
晩年の作に比べると文章の質感は硬めだが、
作者自身が称揚した「幾何学的精神」が感じられて、
これはこれで面白い。

「撲滅の賦」
 恋人の心を掴む、小さな鉢の中の金魚に嫉妬する男の惑乱。
 サイズの大小にかかわらず、
 目玉というのはいかがわしい器官である。

「エピクロスの肋骨」
 サナトリウムを脱出した青年と不遇な少女の出会い。
 タルホ的ロマンの雰囲気を醸しつつ、
 ラストはブラッドベリ風の不気味さ。

「錬金術的コント」
 バーテンダーの切ない悲恋。

「犬狼都市」
 父も継母も婚約者も冷やかに見下す麗子と、
 ファキイル(断食僧)と名付けられたコヨーテの交感。
 それにしても4カラットのダイヤの指環なんて、
 凄いな婚約者君(笑)。
 ところで今回久々に読んで、
 どことなく倉橋由美子作品に似た趣を感じたが、
 そういえば福武文庫版『犬狼都市』の解説は倉橋さんだった。

「陽物神譚」
 ローマ帝国第23代皇帝ヘリオガバルスの物語を、
 異なる語り手の叙述――
 但し、一人称は全員「おれ」――で綴る。
 ・皇帝の命令で古い神殿を破壊し、
  新たな「玉葱」の神像を作る彫刻師カリクレス。
 ・女陰を穿って両性具有者となった
  皇帝ヘリオガバルスの思索。
 ・奴隷によるヘリオガバルスの淫蕩かつ悪虐な所業の描写。
 ・彫刻師カリクレスに刺された哲学者
  ――キュレネ派ヘゲシアスの弟子と称する――の
  今わの際。
 ・高級将校による祭の狂乱の描写。
  血の匂いに酔った彼は
  自ら何者かを殺害しようと思い立ったが……。

「マドンナの真珠」
 遭難者を引き入れた幽霊船の船長以下、
 亡者の乗組員は、
 健康な生者に対する嫉妬と娑婆への未練に苦しむ。
 憐れで滑稽だが同情が湧く。

「サド侯爵の幻想」
 バスティーユに投獄されたサド侯爵の白昼夢とフランス革命。
 稲垣足穂「ヴァニラとマニラ」参照。
 http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4309402879

「哲学小説・エロティック革命」
 近未来SF日記。

「人形塚」
 およそ適性があるとは思い難い、
 冷酷な小学校教諭・島谷24歳・独身の奇妙な体験。
 傷んだ人形の供養塔=人形塚に放置された「少女」を
 立て続けに下宿の部屋に持ち帰った彼だったが……。
 訪ねてくる友人の名が「種村」の箇所は
 何度読んでもお茶を噴きそうになる(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  幻想文学
感想投稿日 : 2017年11月5日
読了日 : 2017年11月5日
本棚登録日 : 2017年10月31日

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