煙滅 (フィクションの楽しみ)

  • 水声社 (2010年1月1日発売)
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本棚登録 : 246
感想 : 20
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タイトルは「跡形もなく消えてなくなること,消し去ること」の意。
主要な登場人物が次々に姿を消していくが、
何故消えなければ、あるいは
消されなければならなかったかという真相に辿り着くまで、
奇妙な言語遊戯が繰り広げられる。

不眠症の男が幻覚に苛まれながら小説の構想を練っていたが、失踪。
友人たちは彼が残したテクストを読み解いて
行方を探そうとするが、
手掛かりが増える度に却って事態は混乱していく。

勘のいい人は途中でカラクリに見当がつくらしいが、
凡庸な読者は
訳者のあとがき兼解説に接して初めて「おお」と
膝を打ったのだった。
これは作者がある企図に基づいてルールを設定し、
その効果を最大限に発揮するためのストーリーを
構築して書かれた小説、とのこと。
なので、御都合主義的な展開や結末の呆気なさに
ポカンとしてしまうが、
富豪の屋敷の老メイドによる幻想文学的な話中話など、
楽しめる箇所も多々あった。
ついでに言うと、キャラクター達のドタバタぶりに、
ある種の映画に似た雰囲気を感じたのだが、
作者は『地下鉄のザジ』の
レーモン・クノーが中心となった文学集団「ウリポ」のメンバーで、
作中にクノーの戯文を登場させている等、
なるほど接点があったのだと納得。

また、Wikipediaによると、
父方の親類にポーランド出身のイディッシュ語の作家
イツホク・レイブシュ・ペレツがいる、とのことだが、
そういえば、先日、沼野充義【編】『東欧怪談集』で
ペレツの「ゴーレム伝説」を読んだばかりだった。

読了後、表紙(装幀)を見直して、
作品のエッセンスが見事に抽出されていることに感嘆。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  フランス語文学
感想投稿日 : 2018年11月21日
読了日 : 2018年11月20日
本棚登録日 : 2018年5月30日

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