豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.87
  • (741)
  • (526)
  • (914)
  • (36)
  • (14)
本棚登録 : 6166
感想 : 655
4

三島由紀夫は敬遠してきた。
「金閣寺」と「潮騒」、それからいくつかの通俗小説程度しか読んでこなかった。
映画を見たことがあったかな。
妻夫木聡と竹内結子が演じたもの。

しかし、何という圧倒的な作品だろう。
美しさを描くとはこういうことなのか、と思わされる。
例えば源氏物語を読んで、絶世の美女、紫の上の描写を読んでも、古文というせいもあって、へえ、と思うだけだ。
でも、この作品では、何か実体感を伴ったものと感受できるのはなぜだろう?

清顕の友人、本多がいることで、例えば美と支配力の問題や、輪廻転生のモチーフが哲学的な深みをもつ。
(そう言えば、シャムの王子は映画には出てきていただろうか? もしカットされていたら、結構平板な内容になっていたはずだ。)

前半は清顕がプライドから聡子への思いに抗い、復讐心に燃えるところが面白い。
時代設定が大正初期ということだからか、「清様も今に分かりますわ」というような、聡子の謎めいた言い方は、どこか漱石の藤尾やら、美禰子やらを思わせる。
そうしてそれが清顕を苛立たせるのだが、若いなあ、と思ってしまう。
ただ、聡子にはそこまで深いものを感じられないのはどうしてだろう。
落飾して清顕を拒み続ける彼女にも、だ。
それこそ源氏の浮舟が重なって見えてしまうからか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年4月29日
読了日 : 2019年4月28日
本棚登録日 : 2019年4月29日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする