三島由紀夫がとある金融事件を元に書いたと言われる作品。
前半部分では主人公の人格の形成される過程がビビットに描かれており、ある種のジャーナリズム性さえも垣間見える。
極めて輪郭のはっきりしたエピソードで自尊心の強い異様な孤独を孕んだ少年の姿が思想そのものと共に示されていくが、六章の後半から一挙に六年を飛ばして戦後へ物語は紡がれていき主人公へ金融屋としての道へ歩を進める。
前半は物語ではない思想そのものが多く描かれ難解ではあるものの、その直接的な要素がこの小説の深度を深める要因となっていたように思える。
金融屋になってからの後半では、前半で描いた主人公の人格を元に小説もとい物語が紡がれていき、深度の沈み込みは緩やかとなり、展開的に話は進む。
三島由紀夫の描く戦後的なシニシズムな思考の主人公はその要素だけでも読み応えを持つのだと感じたが、前半の濃度を味わったからにはわずかな尻窄みを感じなくもない。
だが、三島の感情の論理を描くような文学センスは決して濁ることはなく、ややこしい青年心や自尊心はやっぱり混沌としていて面白い。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2024年2月21日
- 読了日 : 2024年2月21日
- 本棚登録日 : 2024年2月21日
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