鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書)

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  • 講談社 (2012年4月18日発売)
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感想 : 40
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鉄道と国家。いささか堅いタイトルであります。サブタイトルにありますやうに、過去の鉄道敷設において、如何に政治が関はつてきたかを考察します。
表紙には「すべての路線は政治的につくられる!」との惹句(?)。まあこれは当たり前の話で、屡々言はれるやうに、本来鉄道は中央集権の象徴として敷設されてをります。ただ、力のある代議士などが、地元への利益誘導の一種として、強引に路線を迂回させておらが村に汽車を走らせやうとしたり、新たに中間駅を作らせたり、地元の駅に急行を停まらせたりといふのは困りますな。これを我田引鉄と称します。

特段に目新しい内容はありませんが、政治を絡めた鉄道史として、非テツの読者にとつては、恐らく新鮮な視点で読めるのではないでせうか。ああ、わたくしもテツではありませんが。
東海道新幹線に佐藤栄作が大きく関はつてゐて、本書では功労者として描いてゐます。島秀雄や十河信二の名前は直ぐに出てきますが、この佐藤こそ新幹線計画になくてはならなかつた人であると。この視点はわたくしには無かつたので、中中興味深く拝読いたしました。
また、未だに岐阜羽島駅は大野伴睦が強引に作らせた政治駅であるとの俗説が流布してゐます。本書ではその点も修正が入つてをります。まあ、駅前に大野夫妻の像が屹立してゐるのを見れば誤解する人も多いでせう。しかしなぜかかる像を立ててしまつたのか。しかも女房も一緒に!

さて最終章は「海外への日本鉄道進出」がテーマで、本書の中では若干異質な内容であります。今でこそ首相自らトップセールスで新幹線の海外売込をしてゐますが、かつては官民一体に程遠い状態で、海外勢に敗れ苦い汁を飲まされてきました。完成度の高いシステムとしての新幹線を海外で展開することで、その国のインフラ整備、雇用創出など国際貢献も出来ます。因みにこの著者、中国にはかなり毒を含んだ筆致ですね。まあ、ごもつともと頷くしかない。

鉄道をテエマにした「新書」は、今やウンザリするほど出てゐますが、著者の趣味的内容に留まる自己満足本が多いのです。新書として世に問ふならば、この『鉄道と国家』くらゐの力作を望むものであります。

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読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 鉄道の本
感想投稿日 : 2017年1月12日
読了日 : 2017年1月12日
本棚登録日 : 2017年1月12日

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