幸福な死 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1976年6月1日発売)
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感想 : 58
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没後60年を迎へたアルベール・カミュの話。1957年、カミュは43歳の若さでノーベル文学賞を受賞したのですが、そのわづか3年後の1960年、自動車事故にて亡くなりました。
その死後に発表された作品もいくつかあり、この『幸福な死』もその一つであります。

『異邦人』でも、主人公ムルソーが死を前にして幸福感に浸る場面がありますが、ここでも死へ向かふ不条理さが満載であります。それもそのはず、解説によると、この『幸福な死』は、『異邦人』の草稿段階なのださうです。さう言はれると、『異邦人』で読んだやうな記述があつたり、主人公の名前もメルソーで、何となく似てゐます。

本文はかなり観念的な描写に終始してゐます。一応ストオリイはあるんですがね。
そのメルソーは金を奪ふ目的で、身体障碍者のザグルーを殺害します。ザグルーは、恋人のタイピスト、マルトなる女性の彼氏の一人でした。ザグルーは嫉妬から殺したのかと思はれましたが、理由は別のところにありました。

ザグルーから奪つた金で、八時間も働かされてゐる事務所から自らを解放させ、しよぼくれた一人旅をして、「世界をのぞむ家」で三人の女性たちと同居し、さらにその家も去り一人になると、肋膜に異常を覚え病床の人になります。最後は遠のく意識の中で、心は歓喜に浸つてゐたのです......

なるほど、『異邦人』に似てゐます。しかも『異邦人』がその後世に出てしまつたからには、意味がなくなつた作品かも知れません。本書の存在意義としては、巻末の「ヴァリアントならびに注(ノート)」「『幸福な死』の成立について」が収録されてゐることでせうか。カミュ未亡人が公開した研究者向けの資料のやうです。あまりに詳細でくどいので、わたくしは途中からスルーしてしまつた。

決してつまらない作品とは申しませんが、『異邦人』を読んだら重ねて本書を読む必要もないかなあといふ感じであります。『ペスト』『シーシュポスの神話』などカミュの主要作品を読んで興味深いと思つたら、一読するのも宜しからうと存じます。

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読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外の作家
感想投稿日 : 2020年3月16日
読了日 : 2020年3月16日
本棚登録日 : 2020年3月16日

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