満月 空に満月 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2003年10月11日発売)
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感想 : 10
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海老沢泰久さんが手がけた、井上陽水評伝であります。
タイトルの「満月 空に満月」は、初期の作品「東へ西へ」の歌詞から採られてゐます(たぶん)。
陽水さんは、元々父親の意向に沿うべく、歯科医を目指してゐたのですが、歯科大学の入試に失敗、結果3浪までしてしまひます。中学三年時に出会つたビートルズ音楽に衝撃を受け、夢中になりすぎてしまつたのであります。
なので影響を受けた彼は、自分の音楽はフォークではないとし、世間での認識とずれを示してゐるのがをかしいところです。

結局大学はあきらめて、生活のため音楽で身を立てやうとします。アンドレ・カンドレなんて名前でデビューするのですが売れないので、別のレコード会社へデモ・テープを持ち込むのでした。そこがポリドール・レコードで、多賀英典といふディレクターがゐました。この多賀さんはシンガー・ソングライターを発掘しやうと考へてゐたり、シングル中心のレコード業界に疑問を持つてゐたり、当時の井上陽水にとつてはこれ以上ない人物と申せませう。
この辺の事情は陽水ファンにとつては有名な話なのでせうね。

多賀さんと衝突もしながら、陽水は「氷の世界」で一挙にブレイクします。これから華々しい活躍が始まるといふところで本書は終つてゐます。単なるサクセスストオリィではないことがわかります。

幼時から二面性を持つた井上陽水。お年玉を「いりません」と断つたり、小学生時に「スタンダード・ナンバー」が好きな音楽だと答へてすぐに嘘を見抜かれる自分にショックを受けたり...「子供らしい子供」ではありません。そんな自分を自分で悩んでゐる陽水。社会的成功を得てもそれは変ることはなかつたさうです。海老沢さんはそんな彼に興味を感じたのでせうか。本書での陽水さんはいつも困惑し、悩んでゐます。まあ私なんかは、さういふ悩める陽水さんには茶目気を感じるのですが。
いはば人間的弱点をさらしながら、魅力を倍増させてゐるところが面白いのでした。

http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-178.html

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の作家
感想投稿日 : 2011年12月6日
読了日 : 2010年9月25日
本棚登録日 : 2011年12月6日

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