チェ・ゲバラ伝

著者 :
  • 原書房 (2001年1月1日発売)
3.68
  • (55)
  • (45)
  • (102)
  • (4)
  • (4)
本棚登録 : 514
感想 : 58
4

先日行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)において、日本代表はキューバに2回勝ちました。これまでの対戦成績からしますと、この2つの勝利はとても意味のあるものだったかもしれません。
 最初の戦いの後、そしてWBC終了後に、キューバの全国家元首であるフィデル・カストロのコメントが伝わってきました。カストロは2008年2月に元首を退任したものの、その存在感とキューバにおける影響力に陰りはありません。WBCの時に、このようなコメントが聞こえてくるのも、その存在感ゆえであります。
 フィデル・カストロも今年で83歳。
 同時代を生きた革命家や、政治家で名を馳せた人はたくさんいます。キューバ危機を招いたアメリカのJ・F・ケネディ、ソ連のフルシチョフなどなど、様々な人物が現れてきましたが、彼らはすでに鬼籍に入っています。それに比べ、このフィデル・カストロは、幾多の戦闘と困難、政治的危機などを乗り越え、その威厳を失わず、そしてキューバを命がけで守ってきました。激動の時代を通し、その中心にいながらこの時代まで生き延びていることは、世界でも稀有な革命家と言えます。このことに思いを馳せると、時代を超越した巨大な革命家であるフィデル・カストロが、こうして身近な話題であるWBCにコメントを寄せるということは、これもまた感慨深いものではないでしょうか。そして、そのコメントが、戦争・戦闘のような血生臭いものに対してではなく、彼が愛するキューバの国技である野球に向けられているということを考えると、世界は少しずつ平和に向かっているのかと感じるものです。

 さて、前置きが長くなりましたが、チェ・ゲバラです。
 最近チェ・ゲバラのポートレートを元にしたTシャツやグッズも増えていますが、果たしてこのグッズに描かれている人物が、この地球にどのような足跡を残していったのか、本当に知る人はどれだけいるでしょうか。実は私も、最初はTシャツから入った口ですので大きなことは言えません。赤いTシャツ生地にプリントされたチェ・ゲバラの肖像を見て、率直にかっこいいなぁと思い、さらにその赤い下地とあいまって、ゲバラの肖像から伝わる情熱のようなものが直に伝わってきました。とりあえず“キューバ革命の人”という認識しかありませんでした。あれだけ受験で世界史を勉強してきたのですが、チェ・ゲバラという人物の名前はどこにもインプットされていなかったのです。そんなお恥ずかしいわたくしめですが、その後しばらくして、改めてチェ・ゲバラとはどんな人物なのか、ということを知りたくて冒頭の本チェ・ゲバラ伝を読みました。

 詳しくはこの本を始め、他に出ている本を通してその生涯をたどることが良いと思いますが、チェ・ゲバラという人物は、短い人生を疾走した人で、様々な魅力をもっている人物です。旅人であり、医者であり、ゲリラ戦闘員、そしてキューバ革命完成後は工業相を勤め、使節団の団長として世界を巡りました。そしてまた、重度の喘息を持っているなどの特徴もあります。

 チェ・ゲバラの魅力の一つは、その“飾らなさ”にあるのではないかと思います。着ている服に始まって、生活は完素を貫いてたようで、自分が得たものは常に他の人に分配していたそうで、また個人的な賞賛を得ることを嫌ったといいます。
 そしてもう一つの魅力は、“民を想う”ことです。革命家としての彼の根底には、ラテン・アメリカの人々が置かれている、帝国主義の支配下にある苦渋の生活を、なんとかして改善していきたいという気持ちがあり、それが行動の原動力になっていました。
 自分を投げ打ってでも民を救う。そして、自分の信念を貫き通すその飾らない純粋さ。この彼の魅力的な姿は、現在の我々にも何か胸を打つものがあるのではないでしょうか。

 物資に劣る革命戦士が、独裁政権を倒すにはゲリラ戦しか選ぶ道がなかったのかもしれません。ゲリラ戦がチェ・ゲバラを育てたともいえなくもありませんが、もし彼が、今のような時代に生きていたら、もっと違った形で世界を通うと考えたと想います。ゲリラ戦以外のゲバラの方法を見ていたかったように思います。
 どんな手段でこの世界に革命をもたらせようとしたのでしょうか。そしてどの国で、どのような活動を続けていたのでしょうか・・・。

 39歳で亡くなった革命戦士、チェ・ゲバラ。その足跡をたどり、現代を生きる勇気を感じてみてはいかがでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人物
感想投稿日 : 2010年5月13日
読了日 : 2010年5月13日
本棚登録日 : 2010年5月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする