ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書 399)

著者 :
  • 光文社 (2009年4月17日発売)
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本棚登録 : 2040
感想 : 358
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 ニュースサイトの編集者をつとめる著者が、インターネットのネガティブな側面をグリグリとえぐり出す現場報告。本書の中でもくり返し言及される梅田望夫のベストセラー『ウェブ進化論』への、アンサーソングならぬ“アンサーブック”ともいうべき一冊。

《私はネットの使い方・発信情報について、「頭の良い人」「普通の人」「バカ」に分けて考えたい。梅田氏の話は「頭の良い人」にまつわる話であり、私は本書で「普通の人」「バカ」にまつわる話をする。》

 ネットが育む「集合知」についての夢を語る梅田望夫に対し、著者はネットが増幅する「集合愚」を慨嘆する。リアル世界では平凡で無害な人間が、ネットの匿名世界で暴走し、集団クレーマーと化し、安全圏から弱者を吊し上げる例など、「集合愚」の例がこれでもかとばかり列挙されていく。

 90年代中盤までのネット黎明期はさておき、いまやネットは最も安価な娯楽と化し、バカと暇人ばかりが幅をきかせているではないか。なーにが「Web2・0」だ……という感じの本。

 仕事でネットの現場最前線に立ち、「バカと暇人」からのクレーム等に日々さらされている人の言だけに、著者の主張には重い説得力がある。

 著者が言うネットの負の側面について、ネットを日常的に利用する者なら誰もが知っているわけだが、それでも「そんなの知ってらあ!」という感じにはならず、面白く読める。ネットの負の側面について、著者のように語った人はいそうでいなかったからである。
 著者は、眉根にシワ寄せて「ネットの闇が」うんぬんと正義を振りかざしたりはしない。もっと軽快かつアイロニカルに、梅田望夫に代表されるネット理想論を、論点ごとに反証を挙げて笑い飛ばしてみせるのだ。

 とくに面白いのは、第3章「ネットで流行るのは結局『テレビネタ』」と、第4章「企業はネットに期待しすぎるな」。

 前者は、「テレビの時代はもう終わった。いまはネットの時代だ」というしたり顔の通説に冷水をぶっかけて痛快。著者はネット最前線での見聞をふまえ、「最強メディアは地上波テレビ。彼らが最強である時代はしばらく続く」と断言する。

 後者は、企業等でネットにかかわる部署にいる人は必読の内容だ。
 著者は「ネットでブランディングはできない」「先にバカをした企業がライバルに勝利する」(以上、小見出しタイトル)と言い切り、次のように結論づける。

《(企業は)ネットでバカなこと、B級なことができないのであれば、ネットでは最低限の情報公開を除き、何もすべきではない。クリックされず、さらにリスクを恐れている状況では、ネットを使いこなせるわけがないのだ。》

 書名から想像した内容よりもずっと面白く、深みもある本だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: IT・ネット
感想投稿日 : 2019年3月30日
読了日 : 2009年7月5日
本棚登録日 : 2019年3月30日

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