家のない少女たち 10代家出少女18人の壮絶な性と生 (宝島SUGOI文庫) (宝島SUGOI文庫 A す 2-1)

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  • 宝島社 (2010年10月7日発売)
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 「裏社会・触法少年少女を中心に取材活動を続けるルポライター」(著者略歴の一節)が、いわゆる「プチ家出」ではない「本格家出」のケースばかりを扱った連作ルポ集だ。

 副題の印象から、「どうせ下品なキワモノ本だろう」という先入観を抱いて手にとったのだが、読んでみたら真摯な内容の本格的ルポだった。
 著者の文章は読みやすいのに味わい深く、少女たちのイメージが鮮やかに浮かぶ描写力がある。

 登場する家出少女たちを、著者は「言わば日本のストリートチルドレンであり、現代社会の崩壊していく家庭の墓標である」という。
 なるほど、少女たちの語るこれまでの歩みはどれも壮絶で、「ホントに日本の話なのか?」と目を疑うほどだ。貧困と暴力、親や同居人からの性的虐待、いじめ、レイプ、援交、裏風俗、ドラッグ、児童養護施設や児童自立支援施設でのつらい日々……。

《夏子は、同居する風俗嬢の部屋で出産。そしてその乳児を、病院の前に遺棄した「子棄ての家出少女」だった。
 中絶経験のある家出少女など、もうありふれた話だ。生活のために売春に身をやつす家出少女たちにとって、最大のリスクは間違いなく「予期せぬ妊娠」だろう。虐待家庭からの逃避や貧困からの脱出等、様々な理由で本来いるべき場所が「危険」な少女らにとって、妊娠を理由に家に戻らざるを得ない状況に陥ることは、最も避けたい事態だ。》

《少女らの血反吐を吐くような独白は、僕の胸に鋭く突き刺さる。「家に帰れば?」なんてことは、とても言えやしない。かといって、様々な危険を伴う家出生活を続けろと言うことも、またできない。取材を重ねるたびに、無力感に苛まれることも多くなった。》

 そんなふうにいう著者の目線はしかし、「なんてかわいそうな少女たち」という「上から目線」でもなければ、社会派っぽい「告発目線」でもない。
 著者は少女たちのミゼラブルな半生に向き合いながらも、彼女らの“生き抜く力”にどこか敬意を払っている。家出少女たちの生活を全否定するのではなく、どこかで「これもまた一つの生の営みなのだ」と肯定する視線が感じられる。

 じっさい、登場する18人の少女のうち何人かは、家出して援交で生活費を稼ぐような暮らしをしながらも、ピュアな心とたくましい生命力を感じさせる。泥の中から美しい花を咲かせる蓮のように……。
 家出少女のすさんだその日暮らしが、胸躍る冒険譚のように見える瞬間すら、本書にはちりばめられているのだ。

 その点で、本書の読後感は、少し前に読んで感動した石井光太の『絶対貧困』に通ずるものだ。

 その他、印象に残った一節をメモ。

《裏風俗産業を主として、デリヘルやソープといった一般性風俗、そしてAV業界に至るまで、下半身産業に従事する女性にはかなりの確率で「知的障害を抱える女性」がいる。》

《幼少期から施設に暮らす子供には、実は顕著な特徴がある。虐待を受け施設で育つという成育歴を持ちながら、予想外かもしれないが、概ね「異常に人懐っこい」のだ。これは不特定多数の大人(施設職員)に育てられたことが理由だろうと思う。彼女らはより多くの大人から、ひとかけらでも優しさを貰おうとするかのように人懐こく、大人に対して警戒心がない。どんな大人に対しても、それこそしがみつくように甘えてくるかと思えば、プイっといなくなってしまったりもする。》

《親に殴られ棄てられ家を逃げてきた子供たちにとって必要なことは、本書の少女らの言葉が示している。圧倒的に身を苛む寂しさ、人を信じられないことのつらさ、行きずりの売春男にすら優しさを求める哀しさ。親に抱きしめられたことのない子供たちの切なさは、他者の精神的な抱擁によってしか埋めることはできない。》

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 貧困問題
感想投稿日 : 2018年12月8日
読了日 : 2010年4月15日
本棚登録日 : 2018年12月8日

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