立川シネマシティで『スラムドッグ$ミリオネア』を観た。
言わずと知れた、今年度アカデミー賞最多8部門(作品賞、監督賞含む)受賞作である。
じつによかった。ストーリーがまるで一本の太い動脈のよう。少しも脇道にそれず、ラストシーンに向かって一直線に熱い血潮を運んでいく感じなのだ。
観る者を気持ちよくだましてくれる、大人のためのおとぎ話――。
社会性と娯楽性がハイレベルでせめぎ合い、両者のちょうど真ん中でピタリと針が止まっている。
主人公たち――ムンバイのスラムの子供たちの人生は、この映画に描かれている程度には過酷なのだと思う。つい数日前にも、こんなニュースが飛び込んできた。
《[ムンバイ 20日 ロイター] インドの警察当局は、映画「スラムドッグ$ミリオネア」に出演した女児を、父親が20万ポンド(約2800万円)で売ろうとしたと疑いで捜査をしている。
同映画でヒロインの幼少時代を演じたルビーナ・アリちゃん(9)は、父親と義母とともにスラム街で生活しており、家族に高額の養子縁組を持ちかけた英タブロイド誌ニューズ・オブ・ザ・ワールドのおとり取材は、インドでも大々的に報じられた。この報道を知った母親が19日、警察に届け出たという。》
インドの超・下層社会の現実を直視しつつ、ダニー・ボイル監督は持ち前のポップなセンスで、物語を極上のおとぎ話として織り上げていく。映像自体が心地よい音楽のようで、うずたかく積み上がるスラム街のゴミの山すら、スクリーンの中ではいきいきと美しい。
ストーリーについては、すでにさんざん各メディアで紹介されているので、ここでは触れない。
誰もが知る人気テレビ番組(日本版は、みのもんたの司会で知られた『クイズ・ミリオネア』)を、こんなふうにストーリーに織り込むアイデアがすごい(原作はヴィカス・スワラップの小説『ぼくと1ルピーの神様』)。
「あんなに都合よく、主人公の人生に重なる問題ばかりが出るわけがない」と誰もが思うだろうが、思うだけにとどめよう。口に出すのは野暮というものだ。これはおとぎ話なのだから……。
何より素晴らしいのは、観る者に希望と勇気を与えるおとぎ話である、という点だ。こんなふうにシンプルで力強い映画こそが、数十年後に古典として残るのだろう。
- 感想投稿日 : 2019年4月3日
- 読了日 : 2009年4月25日
- 本棚登録日 : 2019年4月3日
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