20世紀の科学は、生物と無生物を分けているものは何か?という問いへの答えの一つとして「自己複製を行うシステムである」というものを与えた。この定義の下では、ウイルスも生命と分類される。しかしながら、ウイルスは一切の代謝を行わず、たくさん集めれば結晶化することさえできる。これは一般の細胞とは明らかに異なる特徴である。ならば、生物と無生物を分ける定義は、他にどのようなものがあるだろうか?
この問いに対して、DNAの二重らせん構造の発見とその後の生命現象へのさらなる理解の経緯、はたまた著者の経験したアカデミックな世界の裏話などを交えながら考察していくという内容だった。もっとお堅い内容かと思っていたが、とても読みやすかった。
著者の通っていたロックフェラー大学には野口英世のブロンズ像があるが、米国での彼の評価は伝記や教科書に載っているような偉人的なものとは異なる(このあたりを詳しく書いてあるという『遠き落日』も読んでみたい)ということや、研究室の技術員とバンドの二足の草鞋を履く同僚の話、最近話題のPCR法の原理や、それを発明した化学者のエピソードなどの小話が非常に読んでいて面白かった。「死んだ鳥症候群」のくだりはアカデミックな世界だけに留まらず共感する人も多いのではなかろうか。
専門的な内容もかみ砕いて説明してくれており、この手の話に詳しくない人でも楽しんで読むことができると思うので、「自己複製するもの」という定義以外に生物と無生物を分けるものは何かという表題への答えは、是非読んで確かめていただきたい。
- 感想投稿日 : 2020年5月22日
- 読了日 : 2020年5月22日
- 本棚登録日 : 2020年5月22日
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