アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】

  • 晋遊舎 (2011年6月18日発売)
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『アナタはなぜチェックリストを使わないのか』

高層建築は多くの業者に分業されており、一つの連携ミスが計画を狂わせ、一つの作業漏れが大惨事に繋がりかねない。建設現場では以下の2種類のチェックリストが使われている。
①単純な手順の間違いを防ぐためのチェックリスト
②予想外の困難も確実に全て解決するため、必要な場面で必要な項目について関係者に話し合いをさせるチェックリスト

特に2つ目について、
「起こりうる全ての問題を事前に予測するのは不可能だが、問題が発生しやすそうな工程や時期は予測できる。だから事前にコミュニケーションの予定を入れておくことで、問題が発生しても対応できる。」
「各専門家は自分の分野には詳しいが建築の全てに精通しているわけではない。各専門家が独断で動くと大惨事になる。」
「現状把握とコミュニケーションの円熟化こそが、建築業界のここ数十年の最大の進歩だ。」
という。

「本当に複雑な状況、つまり一個人で知るのは不可能な量の知識を必要とし、不確定要素が多い状況では、中央から全て指示しようとすると必ず失敗する。これがハリケーンカトリーナの本当の教訓だ」
「状況が刻々と悪化していく中、誰が権限を持つべきかという論争が何日も続いた。連邦政府は州政府に権限を渡そうとせず、州政府は地元政府に権限を譲ろうとしなかった。まして民間に権限を渡すなんて考えられないことだった。その結果は悲惨だった。水と食料を満載したトラックは、『我々が頼んだものではない』と政府に追い返された。」

対してウォルマートの社長は「自分が持つ権限移譲の判断を下さなければならない状況もたくさん発生すると思う。手元にある情報を元にベストの判断をしろ。そして何より、正しいことをしろ」と各店長に命令した。

ロックバンドのヴァン・ヘイレンはコンサートの契約書に「楽屋にボウル一杯のM&M’sチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&M’sは全て取り除いておくこと。」と記載して、違反した際には実際にコンサートを中止した。ヴァン・ヘイレンは持ち込み機材や関係スタッフの多いバンドで、電話帳並みに契約書が分厚かった。M&M’sの項目は契約書が隅々まで確認されているか試す機能がある。実際、楽屋で茶色のM&M’sが見つかった会場では、重量制限の確認がされず、セットが会場の床を突き破って落ちるところだった。

1954年のロンドンのコレラ大流行は、①感染者の居住地のマッピングと聞き取りによって井戸が原因と推測、②井戸の取手を取り外す、という手順で解決された。後日汚水溜めから漏れが発見された。この手法はその後感染拡大防止の手法として採用された(=再現可能なチェックリスト)。
パキスタンの10人に1人の子供は15歳になる前に亡くなり、主な死因は下痢と急性気道感染症だった。水道や汚水処理システムは不十分、教育がいい届いていないため衛生の知識がない、都市は職を求める人で混雑し、腐敗した官僚政治は役に立たない。そんな多様で根深い問題がありながらも、解決策はシンプルに石鹸だった。配るだけでなく、使う場面と正しい使い方を教えた(=チェックリスト)。

①介入がシンプルである
②効果を丁寧に測定している
③介入の効果が増幅して広がる
ROIが高い=てこ。

チェックリストを作っても習慣化させるのが難しい。手術室のホワイトボードに手術準備のチェックリストを書き、看護師が声に出してチームに確認した。準備の際に看護師がメスの上に「離陸準備完了」と書かれたカバーを掛け、チェックリストを確認した後、看護師がカバーをとる。それまで外科医は手術を始められない(=権限の再分配)。

チームワークを向上させるチェックリスト
①1分でもいいからチーム全員が必ず話し合うこと
②お互いの名前を知っておくこと
その後も問題を提起したり解決策を出しやすくなる。当事者意識と責任感が高まる。

航空用語で「ポーズポイント(一時停止点)」を設け、そこに到達するとチームは立ち止まっていくつかのチャックをしなくてはいけない。

・チェックリストは声に出す。
・長く不明瞭なチェックリストは機能しない。

◼️使いにくいチェックリスト
・現場を知らないデスクワーカーが作る。
・現場の人間は馬鹿だと思って全ての手順を事細かく書き出そうとする。

◼️良いチェックリスト
・効率的で、的確で、明確。
・全てを説明しようとせず、重要な手順だけを忘れないようにさせる。何より実用的であることが良いチェックリストの条件だ。

チェックリストを渡しただけでは使ってくれない。
・そう訓練されているから。人間の記憶力と判断力は不確かで、その事実を認識しないと死者が出る。
・価値を見出しているから。実績から、自分の勘よりもチェックリストを信用している。

◼️決めなければいけないポイント
・いつチェックを行うか(一時停止点を決める)
・「行動のち確認」なのか「読むのち行動」なのか
・項目の数は5〜9個だが、猶予時間によって変えて良い
・一つの一時停止点に60〜90秒かかってしまうと邪魔に感じる。手順を省かれやすくなってしまう。
・飛ばされがちだが致命的なキラーアイテムのみに絞る。
・業界人なら誰にでもわかる言葉で書く。
・1ページに収まり、余計な装飾や色使いは避け、大文字と小文字を使い分けて読みやすくする。
・Helveticaのようなサンセリフ書体を推奨。
・初稿での完成度は必ず低いので実戦でテストする。

チェックリストはマニュアルではない。全ての手順を詳細に説明するものではない。熟練者を助けるためのシンプルで使いやすい道具なのだ。
重要な発見があった時、分厚い資料を作成して配布しても情報量の多さに対応できず、広まらない。最も重要な部分だけを抽出したわかりやすい形に変換しなければいけない。
各学校や病院で少しずつやり方が違うので調整してもいい。

◼️つまずきポイント
・誰がチェックをするのか。権威ある人物(主治医、パイロット)は作業に気を取られて省くかもしれない。責任感と発言のしやすさにつながるため権限の分散がいい。
・チェックボックスにテェックするのか、口頭で言うだけなのか。
・問題の発生確率と被害の大きさを確認して、ROIの高い改革のために項目を絞る。確率が低くても大問題になるものは残す。
・チェックリストを使ってもらうために説明会などの活動も必要。印象に残すため、悪い例を笑いとともに見せるのも良い。

チェックリストを使った投資家が成功しても、誰もチェックリストを使おうとはしない。自分の直感を信じたいのだ。
チェックリストとチームワークがハドソン川の奇跡を起こしたことは事実なのに、英雄は直勘や技術で困難を切り抜けると思っている。
チェックリストは退屈だ。
チェックリストを使うと機械的な作業になっていざという時に目の前の現実に対処できなくなると危惧する人もいる。
しかし良いチェックリストは簡単なミスを防ぐ作業から思考力を解放してくれる。その分より複雑な問題に対して集中して取り組めるようになる。

どんな職業にも共通するプロフェッショナリズムの3要素がある。
①無私であること。他人から責任を預かる者は自分の利益よりも頼ってくるものの問題や心情を考えるべきだ。
②腕があること。技術と知識を日々研鑽することが求めらている。
③信用に足ること。自分の職務に誠実な態度で臨む必要がある。

航空業界は4つめを加えた。
④よくできた手順には従うこと。必ず他者と協力すること。

最高の部品を集めても最高のシステムは生まれない。次々と新しいテクノロジーを発見してもそれをどう調和させるかほとんど議論されない。成績を計測し続けたり失敗を徹底的に分析したりはしない。だから努力を重ねる以外の解決法はないと思い込んで、同じミスを何度も何度もしてしまう。

人間の限界を認め、チェックリストを活用するべきだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月17日
読了日 : 2019年5月15日
本棚登録日 : 2022年3月17日

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