人間の土地 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1955年4月12日発売)
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感想 : 433
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『人間の土地』、購入してから7年経ってようやく読了しました。サンテグジュペリの言いたかったことは最終章にあり、それまでの章で描かれてきたことが最後でつながる。わりと一般的な構成ではありますが、この最終章までの流れが素晴らしい。

私は40過ぎてちゃんと読んだけど、若い方に読んで欲しい本。高校生〜大学生、それから20代後半〜30代前半くらいまでの方で、仕事や人生に対して「本当にこれでいいのかな」と悩んでる方などにお薦めだと思う。

しかし、堀口大學さんの訳が読みづらいので、2015年に出た光文社古典新訳文庫の方から読んだ方が良いのではと思います。

私は堀口大學さんはNHKの番組を観て好きになったけど、それと訳はまた別。堀口さんがもし今ご存命だとしたら、また違う感じになったのではないかと。
前作『夜間飛行』『南方郵便機』も読みづらかったのですが、この二作ですでに訳し方が若干違っていて、『夜間飛行』→『南方郵便機』→『人間の土地』と進むにつれて、だんだん読みやすくなっています。特に飛行機の専門用語の訳し方はちょいちょい変えてあって、『人間の土地』は専門家の方に協力してもらったそう。

翻訳というのはそういう風に、時代に合わせてマイナーチェンジされる、アップトゥデイトされるものだと私は考えています。これは外国映画の翻訳もそうだし、また逆に日本映画の海外翻訳から考えさせられたことです。古い日本映画はセリフが聴きづらいことが多いけど、海外だと字幕がつくから、日本ではなく海外の方が受け入れやすかったりするのでは。

堀口大學さんはたぶん、なるべく直訳に近い形で訳されていると思う。しかしフランス語と日本語では当然文型が異なるので、そのまま訳すと倒置されてしまう。これも読みにくい理由かと。日本語ラップかよ!って感じですね笑。

✳︎

前置きが長くなりましたが内容について。

まずこの本は冒険小説。ほぼノンフィクションかな。似たことが解説でも書かれてますが、サンテグジュペリが「実際に行動して経験したこと」と、「文章を書ける表現力がある人、詩人」の両輪がなければ、この小説は成り立っていないと感じました。

例えば有名な問い、「なぜ山に登るのか」ということを考える。登山以外でも、なぜマラソンをするのか、とか。あんなに苦しいのに。きついのに。
サバイバル登山家の服部文祥さんとか、あと開高健がなぜベトナムの戦場に行ったのか、とか。
極限状態に自分を置くこと、荒ぶる自然と肉薄することで、「なぜ生きているのか」という哲学、実存についての問いになってくる。(映画の場合、刑務所や収容所もの、戦争ものなどに多いテーマ)

我々、普通に生活をしている現代人の多くは、こういう極限状態を体験することはほとんどない。読書を通じて、サンテグジュペリのこの体験を知れるということはそれだけで貴重です。

各章のエピソードはどれも良いけど、印象的だったのは奴隷だった男の話。先程書いた最終章からは、映画『ハートロッカー』を思い出した。

私はこの本をブックオフで105円という安価美品で購入したのだけど(前の増税前!)、こんなに良い本を手放す人も多いので、読書が好きな人、学生さんなどお金がない人にとってはチャンスですよ。ぜひ読んでみてほしいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年9月17日
読了日 : 2019年9月8日
本棚登録日 : 2019年9月8日

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