ヤイトスエッド

著者 :
  • 講談社 (2009年4月25日発売)
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本棚登録 : 70
感想 : 13
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吉村萬壱の短編小説6編収録。2003年にハリガネムシで芥川賞を受賞した3年後に発表された「イナセ一戸建て」から2009年発表の「不浄道」まで、主に「群像」に掲載された作品を収録している。
 田舎の町工場で繰り広げられる卑しい男女関係を描いた「B39」と、男性の視点から語られたB39に対して同じ出来事を女性側の視点から語った「B39-Ⅱ」、そして衛生的な生活を是とする現代人の生活は強迫症的であるとして、不浄の道を突き進む女性を描いた「不浄道」、これら3点の作品は特に印象深い。

どの作品も極端な生き方をする極端な人間が描かれている。
誰の心にもある卑しい部分を摘出して、拡大鏡で観察しているかのような気持ちになる。
これらの作品を読む事によってどんなプラスがあるのかと問われれば、「不浄道」の一節を引用したい。不潔な生き方を貫く主人公の同僚にこんな変化があったと作品中描かれている。「嘘っぽい話ですが、寝坊して朝のシャンプーが出来ないからとか、化粧の乗りが悪いからという下らない理由で遅刻や欠勤をしていた女性社員達が、私の存在を思い出すことによって、少しくらい無様でも堂々と定時出勤するようになったという話も聞きました」
不潔な主人公によって、同僚の清潔のレベルは引き下げられたように、極端に卑しい登場人物によって、わたしの道徳的許容度の境界は押し広げられて、よりひとを寛大な目でみられるようになったような気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年12月14日
読了日 : 2012年12月14日
本棚登録日 : 2012年12月2日

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