すばらしい人間部品産業

  • 講談社 (2011年4月15日発売)
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感想 : 27
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『すばらしい人間部品産業』というタイトルの『すばらしい』は、かのハクスリーの『すばらしい新世界』と同じ意味を持っている。

現代は、利潤と効率の時代だ。
血液、臓器、胎児、卵子、精子、人間の身体はパーツ化され、それを”部品”として売り買いするばかりか、代理母として、その生殖機能までを売買しているのは周知の通り。パーツはさらに細かく分断され、はては遺伝子にまで商品化は及ぶ。
自分のパーツを「売る」のは、その殆どが経済的に貧しい人々だ。
彼らにとって臓器を売って得る金額は、一生涯に稼ぐ金額よりも大きい。
世の中には子供を持つためには、金銭に糸目をつけないという人も多い。が、そこには強力な経済的な制約が生じる。
そして、生殖ビジネスには常に優生学がつきまとう。

我々はいつから自分たちの身体まで商品として扱いはじめるようになったのか?
著者はその萌芽を、ガリレオとアダム・スミスに見出す。
前世紀、科学は驚くほどの進歩を遂げた。研究者たちはモラルよりも自らの能力の証明を優先させたがった。
そして科学と経済は強力なタッグを組んで邁進してきた。

本来そこには、倫理観や社会道徳がなければいけなかったのに、私たちは立ち止まって考えるということをしてこなかった。
このまま放置すれば、必ず未来はディストピアになるだろうと著者は警告する。
だが、バイオテクノロジーの恩恵をどこまでは許容できて、どこからが許容できないという線を引くのは難しい。
しかし、alll or notingではない。「無償供与と共感」という考え方に立ち戻ることで、私たちは人間の身体、命の尊厳を取り戻せるのではないかと著者はいう。

本書は、前半かなりの部分を割いて、バイオテクノロジーと市場主義がもたらしたおぞましい人間部品産業の現実を明らかにする。これらは怖いものみたさ的な興味を引く。が、本書の趣旨は後半にこそある。
問題提起のみに留まらずに、著者はそれを解決すべき具体的な施策まで言及しているのだ。

ただ、人間の欲望というものは手強いものだ。
この施策がアメリカで法案化されたとしても、人間部品産業の暴走は止まらないかもしれないな、などと思った。

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感想投稿日 : 2011年10月26日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年10月26日

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