新撰組隊士にまつわる色んな作家さんの短編を集めたアンソロジー。津本陽、池波正太郎、三好徹、南原幹雄、子母沢寛、司馬遼太郎、早乙女貢、井上友一郎、立原正秋、船山馨。
めあては司馬遼太郎さんの短編だったのですが、そっちはそっちで面白かったのだけれども、最後にのっていた船山馨さんの『薄野心中』が、すごく好きでした。
五稜郭から逃げ落ちた斉藤一が、名を伏せて札幌の土塁工事の人足に紛れていた……という設定で、二十六ページの短いストーリー。
北海道開拓使の伊牟田は、人足の中に名を変えて紛れていた斉藤一と、それからもと旧会津藩士だった石坂という男に目をつける。けれど、「反乱軍に所属していた者でも、新政府への叛意があきらかでなければ処罰しない」という方針が政府からは示されているため、表立って彼らをどうこうすることはできない。けれど斉藤一は新撰組で名の知れた憎き敵で、伊牟田はどうにかして斉藤を暗殺しようと、画策をはじめる。
その伊牟田に、石坂は恨みがある。かつて恋仲だった志津という娘が、戦乱のさなかに伊牟田に手篭めにされ、挙句女郎として叩き売られてしまったのだという。その志津と妓楼で再会し、それまでの経緯を聞いて、石坂は伊牟田を殺すつもりで刀を持ち出す。けれど斉藤から思いとどまるように説得されて、やがて苦悩の果てに考えを変え、志津と逃げだして、ふたりで新時代を生き抜こうと決意する。
けれど伊牟田はその石坂に、汚い手段をつかって濡れ衣を着せ、殺してしまう。
自分が暗殺されかけても飄々として、争いを嫌い、穏便に札幌から逃げ出そうとしていた斉藤だったが、これを知ってひとり伊牟田の前に立ちふさがり……
いいな、こういうのすごく好きです。自分のことは何をされても飄々としている人が、友達がひどい目に合わされたときは激怒するっていうのって、読んでてすっごく胸が熱くなります。
- 感想投稿日 : 2010年5月18日
- 読了日 : 2010年5月1日
- 本棚登録日 : 2010年5月1日
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