辻村深月さんの『サクラ咲く』
3編の短編がゆるりと繋がっていて、その仕掛けもまた趣があって素敵な作品だった。
10代の若者に向けられたメッセージ性の高い内容だったので、これは是非そのお年頃の方々に手に取って欲しい。
とはいえ、大人が読んでも十分に心震わされる青春小説なのが、辻村さんの凄さだと思う。綺麗事だけじゃなく、人間の弱さや傲慢さや嫉妬といった誰もが持ち合わせている部分もしっかり描かれている。
生きていく上での自分の核となる部分を少しずつ築いている10代ならではの、瑞々しくて、苦くて、甘くて、優しくて強くて、何だか私もこの頃に戻ってもう一度やり直したくなった。
そういえば学校の図書館、数える程しか行かなかったな、勿体無いことしなぁ。
きっと、あの当時はもっと優先順位の高い別のことに夢中だったのだ。不器用で目の前の世界が全てで、悩んで、苦しんだり、毎日揺れ動いて、何だか愛おしい時代だったな。こんな気持ちを思い出させてくれる辻村さんに本当に感謝だ。
久しぶりに、読み終わるのが名残惜しい程の作品に出会えてすごく幸せ〜♪な読後感だった。
収録は以下の3編
「約束の場所、約束の時間」
転校生の悠は目立たなくて控えめで、朋彦とは正反対のタイプ。朋彦は自分と悠がまさか親友になるなんて思ってもみなかった。立ち入り禁止に指定されている校舎の裏側で、悠を見かけた朋彦は彼の秘密を知ることになるのだが・・・
「サクラ咲く」
塚原マチは学校の図書館で手にした本に「サクラチル」とたった一言のメッセージが記された便箋が挟まっているのを見つける。マチを取り巻くみなみ、奏人、恒河、琴穂・・・といった面々との日々の生活の中で、メッセージをキッカケに、マチの中で何かが変化しようとしていた。
「世界で一番美しい宝石」
一平、リュウ、拓史の3人は映画同好会で活動している。同好会を何とか「部」に昇格させたい一平は、自主制作映画にかけるのだが、主演女優にスカウトした“図書館の君”こと立花先輩は断固拒否している。この話を受ける代わりに彼女が出した条件とは?そして、彼ら3人が導いたこたえとは・・・
- 感想投稿日 : 2024年3月31日
- 読了日 : 2024年3月31日
- 本棚登録日 : 2024年3月10日
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