M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究

  • エスクアイア マガジン ジャパン (2008年3月31日発売)
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感想 : 14
5

776ページの辞典並のマイルス講義。
実際に東京大学での講義を口語でまんま収録した本。
にしても、饒舌でかつ理論家の菊地氏のマイルス解説、なかなかに深い。

サブテキストとして自叙伝ともう一つの解説本を挙げてるわけだけど、
確かに、自叙伝では割にオープンに語られてはいるけど、自身の一人称であるわけで、第三者から分析されたマイルスの人となりと音楽は、見え方が全くと言って良いほど違う。まさに目から鱗。

一環して主張される「異端の黒人」としてのマイルス(実は異常なほど裕福な家の出身である)、そしてマイルスの持つ精神性(アンビヴァレンス、ミスティフィカシオンと度々表される)、この二点については長らくマイルスを聴いてきたけども、盲点だった。これを知ってるのと知らないのとでは、マイルスの音楽の聴こえ方が180度違うと言ってしまっても良い。

よく言われるモード革命、は本書では敢えてすっ飛ばしているけれども、
それ以外、特に「ビバップという革命」、そしてインアサイレントウェイに代表される「テープ編集」には改めて目を、いや耳を開かされた思いがした。
ビバップが音楽的にいかなる革命なのか、音楽をやらない者なので理解は出来てないけれども、やはり本書を読む限り、チャーリー・パーカーの偉大さを改めて感じざるを得ない。後に帝王となるマイルスの前に立ちはだかっていたバード、言うなれば怪物、いや大魔王とでも呼ぶべき存在なのかも知れない。
テオ・マセロによって大胆になっていくテープによるエディット。先入観無く、いやむしろ先入観を知らずに持ちながら聴いていたのか、マイルスのレコードは全部ライブ録音だと思い込んでいた。だがしかし、多くの編集が施されていたという真実!その手法はまさにヒップホップにおけるサンプリングに等しい。ジャムセッションから使える部分を引っ張り出してきて繋げていくというアルバム制作、まさにマイルス研究=考古学になっているというわけである。

いろいろ驚きと発見がある内容なのだけれど、これを読破後でも、まだまだゴールしたという感が無い。マイルス大陸に足を踏み入れただけのような気がする。そこは非常にぬかるんでいるわけだけど、果たして出口があるのかも分からないような異様なほど広大で煩雑なパンゲアであり、アガルタなのだろう...。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ガイド
感想投稿日 : 2012年4月9日
読了日 : 2012年4月8日
本棚登録日 : 2012年4月8日

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