男の子のための軍隊学習のススメ (ちくまプリマー新書 89)

著者 :
  • 筑摩書房 (2008年8月1日発売)
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本棚登録 : 69
感想 : 18
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 タイトルから内容が分かりにくいが、冒頭を読めば「この本の正体」として、その内容が書かれている。要するに、「日本の軍隊や兵士をテーマにした小説や体験記」を「百倍楽しむ法」(p.9)について解説したもの。具体的には、帝国軍隊に入隊するまでにどのような過程があるのか(徴兵なのか志願なのか、入隊検査と甲乙丙)、入ってからのルート(二等兵なのか、下士官なのか、将校なのか)といったことについて、多くの作品を引用しながら、解説したもの。巻末には詳しい軍隊小説のリストも、詳しい参考文献とともに載せてある。
 あくまで文学作品を読むための解説であって、著者自身の思想的なことが書かれている訳ではなく、基本的には中立の立場で書かれている。そもそも軍隊小説を読んだこともなければ、旧軍についての本も読んだことがなく、新鮮だった。さらに想定される読者は思春期の高校生、ということで、著者の語り口が軽妙で面白く読めた。
 「陸軍内の序列そのものが二本立て」(p.48)、つまり「階級系統」と「敬老系統」というのは、陸軍だけでなく、似たような二本立ての序列は他の多くの職場でありそうだ。「若いころは、特に『みんなのなかでいちばん若い』ときには、誰かに叱られても、軽んじられても、甘えても、それなりに恰好がつくのですが、年をとると、そうはいかない。ある程度は敬意を払ってもらわないと、居心地が悪くなってしまうというのは、けっこう辛いものです」(p.62)という老初年兵の話の所で、妙に納得してしまった。おれももう30になって、確かに仕事失敗してすみませーん、という年齢ではないなあ、と思う。「無事、有能な若者を元の職場に戻すこと」(p.119)を目指した海軍の「短現」制度というのがあるのは興味深いと思った。結構面白い本だったので、同著者の他の本も読んでみたいと思った。(14/10/05)


 2021年4月中頃に再読。というか本当に読んだ記憶がなく、booklogで感想を書こうと思ったら「既に本棚に登録済み」で、ちゃんと感想も書いていてびっくりした。結構個性的な本なのに全く読んだ記憶がないなんて…。
 2回目に読んだ感想で、納得したところは、「職業軍人とは教育者である」(p.32)という、教育社会学者の佐藤さんの言葉。「戦争でも起こらなければ軍人は訓練、検閲、演習、講評といった『教育活動』で生涯を終えることが通常であった」(同)という部分は、確かにそうだよなあと思った。あとは「日本とヨーロッパの軍人の違い」という部分。「ヨーロッパでは職業軍人の将校は貴族的伝統をもち、社会の上層部の出身者だったことです。」(p.42)という部分。日本の独自性を感じたが、これはアジア全体ということではどうなんだろう、と思った。あとは『魂の試される時』という小説があるそうだが、この題名の意味するところは筆者によればこれは「自分の卑しさとか狡さとかがモロに出てしまったというような、イヤな体験の思い出のこと」(p.51)らしい。魂、とまではいかないけど、あるんだろうな、こういう時、と思う。最後に明治から昭和にかけての「天皇制神話」について。哲学者の久野氏によれば「民衆にとっての天皇制神話は、教義が誰にでもわかるという意味で『顕教』(もしくは『たてまえ』で)であり、統治エリートにとっては『密教』(もしくは国家運営のための『申し合わせ』)であった、と説明しています。」(p.85)の部分、分かりやすかった。そして「『顕教』信奉者の帝国陸軍は、もともと『国民大衆』には近しい存在だったと言えるでしょう。神たる天皇の前では、すべての臣民が平等であるという『たてまえ』のもとで、社会的地位や学歴がチャラにされる陸軍の原則は、『国民大衆』の支持を得ました。」(同)ということだ。最近、録画してずっとHDに残っていた「100分で名著」というNHKの番組の松本清張特集で、『神々の乱心』という松本清張の遺作の紹介を見て、すごい興味をそそられたが、それにも通じるものなのかな、と思った。(21/04)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2014年10月5日
読了日 : 2014年10月5日
本棚登録日 : 2014年10月5日

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