夢野久作全集 8 (ちくま文庫 ゆ 2-8)

著者 :
  • 筑摩書房 (1992年1月1日発売)
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感想 : 23
5

地獄を味わいながら究極迄に追い詰められた精神、苦痛に喘ぎ悲嘆する様を、遺書として瓶詰めにする。瓶の中に地獄そのものが幽閉される。当に瓶詰にされた怨念の現像化された地獄。(瓶詰地獄/読了)

聖書に問いかける様な痛ましい感情描写、奇怪窮まる夢の残像。艶く女の切り落とされた乳房と何処へか向かう足の共通するニオイ。展開の漂流を、何処と無く示すかの様に漂わせた奇々怪々の出来事は、順を追って紡がれてゆく。
ドグラ・マグラを単調にした様な、幾重にも重なり続ける夢現の狂気。悪しからず、足借らず、…の猟奇殺人と夢遊の恐ろしさ、饒舌と無言の混沌。
中々に面白い話だった。
(一足お先に/読了)


この登場人物の唖女からは、常軌を逸した妖艶さ、女の深い執念を思わせられる。奇怪な擬音を発する事で狂気を漂わせながら、その渦中に呑まれた男は女に盛る筈であった薬によって、最終的に自死を図る。
言葉を話さない事にこそ、凄まじい情念を籠める事が出来るのだと痛感した。
懐妊した人間扱いされない女の美しさが見事としか言えない。
(笑う唖女/読了)

残酷でグロテスクな背景描写と染められた思考に依る歪曲した愛執の念が艶かしい色を視界に映す。阿鼻叫喚の中に在る白人と黒人の冷淡で暢気な言葉が与えるコントラストが美しい。
心中を究極美とした噺である処も好きだ。
(支那米の袋/読了)

軸がブレている故にアヤフヤにされてゆく黒幕の存在。感染するかの様に拡がる狂気。
短編で味気は少し足りないが、それなりに珍妙な文章だった。
(崑崙茶/読了)

夢野型式の混沌の極みのノンストップスピーキング。精神異常者の焦点がブレた世界を一個として成り立たせる様描き出す筆力には圧巻されるのみ。
トチ狂った世界の種明かしの顛末は、狂気とも狂喜ともつかない無間地獄。
ドグラ・マグラを完成させる事を只管に切望した彼の心理が解る気がした。
(キチガイ地獄/読了)

笑いに始まり笑いに終る。
人形に只管話し掛ける少女の狂気と快楽殺人。現実への狂った視点は夢野ならではの無間の狂喜を喚起させる。
非常に短い話であるが、その世界は類を見ない喜劇の骨頂である。
(狂人は笑う/読了)

新聞記事から入るという奇妙な構成。登場人物の各々の容貌と性質。陰と陽の綯交ぜられた何とも形容し難い絶妙の接点と交点。対照と平行、垂直な線を繋ぎ合わせる様な人物の関連性と、夢野久作独特の書簡体形式…それも遺書として、単調に喜劇的悲劇を描き、含められた様な感情の底は果しなく奈落の底へと手招く。後味の重さをずっしりと遺す様に、恰も遺書を書いた当人が文を通じて念を送り続ける様に、読了後に睨め付ける哀れな女の姿が映し出される様だ。
(少女地獄/読了)


他。
この中で一番好きな作品は、「木霊」かも知れない。
どれも素晴らしく、各々の狂気と混沌、グロテスク、時間・感覚麻痺を備えて居るが、其れが一番に美しく、又均衡の取れたものが「木霊」であるようにも思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2011
感想投稿日 : 2011年3月2日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年3月13日

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