赤い三角屋根の小さいおうち。女中のタキが、旦那様と時子奥様と恭一ぼっちゃんと暮らした幸せな日々の記憶。
戦前〜戦後を振り返るタキの回想録には、戦争が本格化するまでの市民の大らかな暮らしぶりと妙な高揚、無事を疑わない鈍感さがあって、史実を知っている身からすればその鈍感さがもどかしいような、何とも言えない気分になった。
でも実際最初からあの戦争に絶望を感じたり負けを覚悟していた人なんてほとんどいなかったのだろう…
タキ自身に舞い込んだ縁談や、時子奥様の道ならぬ恋、恭一ぼっちゃんとセイちゃんの間に生まれる確執…どれもリアルで、作者の自叙伝かとすら思わされる。
語り手がタキから健史へと移り、彼がイタクラ・ショージの軌跡を辿る先に意外な真実が秘められていて…
急に物語の色が変わって見える。不思議な作品。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ワケあり。
- 感想投稿日 : 2013年7月1日
- 読了日 : 2013年7月1日
- 本棚登録日 : 2013年7月1日
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