死神の精度 (文春文庫 い 70-1)

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  • 文藝春秋 (2008年2月8日発売)
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あなたの周りにこんな人はいませんか?

その①CDショップに入りびたっている
その②苗字が土地の名前
その③受け答えが微妙にずれている
その④素手で他人に触ろうとしない

その人、死神かもしれません。


死神は対象者に接触し、一週間の調査ののちに「可」もしくは稀に「見送り」と担当部署に結果報告をする。その結果が「可」の場合、翌八日目に対象者は死ぬ。それを見届けるまでが死神の仕事。

死神の千葉は、今作6人の対象者を担当する。
クレーム処理を仕事とし生きている価値を見出せない女であったり、ヤクザに裏切られた男であったり、恋愛している者だったり。
死神は可否を判断するだけなので、中にはきちんと見極めず可を出す死神もいるそう。反対に残り一週間なのだからと、やりたいことややり残したことをサポートする死神もいると。ただそんな中で、千葉はクールでさほど人間には興味を示さないが、きちんと見極め可否を出す。
病死や自殺には関わらず、事件や事故のみに関わる今回の死神。会いたくないけれど、千葉のような死神と最期の一週間を過ごせるなら、それはそれでいい最期になるかも。楽しそうじゃないか。

千葉が決断した可否が一つでも違えば、最後の老女との出会いは生まれなかっただろう。(これから死を可とする死神に対して出会いという表現も変な感じだが)
そう思うと、毎日大小問わず選択をして生きている私たちも、いつ死ぬか分からない中、出会いやその選択をしっかり見極め大切にしていかなければならない。
そして大切にしなくていいものに対してはとことん大切にしなくていい。その時間も人生の一部と考えれば、職場も恋愛も家族も、嫌なものとは別れを決断したい。
あぁ、千葉の言う通りだ。人は何かとすぐに人生と結びつける。

死神は普段こちらでは生活しないためか、少し会話がズレる。比喩が苦手だったり、御法度だろうということを口にしたり。
それがクールな千葉だから、面白い。
死神の本を読んでいることを忘れる瞬間である。

私は伊坂作品でいうと、終末のフールくらい、各章に他章の人物が関わってきてほしい人間なのだが、これは割とアイネクライネ-のように最後にさくっと繋がった感じ。
これはこれで好きだが、そこだけが少し物足りない。
まぁ死神も何十年、何百年、それよりももっと生きているわけだから仕方ないといえばそうか。


いやはや。しかしなぜ。
同じ日本にいて、なぜこのような天才的な奇想が生まれる?
私は本当に伊坂幸太郎氏が好きなんだな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月12日
読了日 : 2023年3月12日
本棚登録日 : 2023年3月8日

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