斜陽 (新潮文庫)

著者 :
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戦後に生きる没落貴族である家族三人の滅びの姿を描いた作品。
語り手のかず子、母、弟の直治。貴族という家柄でありながら、父を失い戦争を終え、移り変わりゆく時代に放り出されてしまった三人。
彼女たちの没落貴族としての生き方、滅びゆく様は、三者三様だった。

最後の貴婦人と称される母は、生粋の貴婦人。
夫が亡くなってもお金の使い方は変えず、家にある着物などを売りながら生活水準を落とそうとはしなかった。そのためにお金は尽きてしまう。
世間知らずのお嬢様のような一面と、娘がボヤを起こしても怒らないというような、何事も受け入れる心の広さも持ち合わせていた。
体は弱かったが、最後まで貴婦人として生きようとする精神は強く清らかであった。

母と山荘に移り住み、母を守ろうと健気に働くかず子。
貴婦人の娘である彼女も世間知らずなところはあるが、彼女なりに懸命に母を想っていることが痛いほど伝わってきた。
母を亡くしてからは、自身の革命に生きる。それは子どもを産むことだった。母が生きるすべてだったかず子は母を失い、ある意味で一度滅び、子どもを産むことで更に力強く生きていくのだろう。

弟の直治は、言葉遣いも態度も悪く薬物中毒となり最後は自殺してしまう。
彼は貴族でありながら一般人との付き合いも多く、自身が貴族であることに苦悩していたようだ。
下品に、強暴になれば一般人と同じになれるのではと考えたが無理だった。やはり彼もまた貴族だった。

三人の生き方の選択は、それぞれ苦悩を抱えながらも自分の信念を貫き通したものだったように思う。滅びゆく様も貴族らしく華麗だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年6月16日
読了日 : 2023年6月2日
本棚登録日 : 2023年6月1日

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