アインシュタインをメインに同時代の物理学者を織り交ぜながら、その物理的思考を丁寧に描いてみせている。教科書で、良く言えば見通しよく、悪く言えば表面的に学んだことも、その奥底には物理的思考が脈打っていることが腑に落ちる素晴らしい著作だ。
絶版なのは惜しい。
ただ、相対論や黒体輻射など一通り学んだ者にしか理解できない面があることは事実で、その前提を明示しておけば、出版が続いたのではないかと思う。
天才にも試行錯誤があったことも興味深い。
・基礎的な物理法則は「相対性原理」にかなっている(P43)
・特殊相対論は具体的な物理学の理論ではなく、あらゆる理論がローレンツ変換の下で不変(正確に言えば共変)になることを要請するメタ理論(P51)
・物質は宇宙が冷えて状態変化を起こした後に生じたという見方が有力だ。とすればアインシュタインのイメージとは逆に、物質は時空に従属していると考えた方がよさそうだ。(P103)
・不確定性原理は、粒子そのものの位置や運動量が確定していないのか、それとも人間の測定では位置・運動量の両方を確実に知ることができないだけなのか、当時ははっきりしていなかった。現在は前者(P161)
・ブラウン運動でも位置と運動量の不確定性関係があるが、原理ではない(P162)
・位置・運動量の不確定性関係が量子力学の原理から直接導出できるのに対して、エネルギー・時間の不確定性関係は、原子核の崩壊や素粒子の反応と言った個々のケースに関して導かれるだけ(P188)。不確定性関係は特殊相対論の要請を満たしていない。これを満たす試みは、ハイゼンベルグとパウリの1929年の論文で量子場の理論としての形式がほぼ完成した。
・ベルの不等式の議論から分かることは、この世界は局所的かつ因果的でない法則に支配されている。(P198)
- 感想投稿日 : 2016年2月2日
- 読了日 : 2016年2月2日
- 本棚登録日 : 2016年2月2日
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