思い出トランプ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.69
  • (307)
  • (353)
  • (542)
  • (72)
  • (6)
本棚登録 : 4255
感想 : 421
4

ウン十年ぶりの再読です。ちょうど私が学生の頃、直木賞をとった作品として話題になり手に取ったのでした。そして、ウン十年後の今、読み返してみるとどう感じるのか?試してみたくなったのです。13作品の短編集です。

当時の日本の一般的な家庭の風景。ごく普通に流れていく家族の生活。夫婦、親子を通した日常。一見何もおかしな所はないのだけれど、その中の個々人の心の中には様々な思い、記憶、経験。嬉しいこと悲しいこと、憎らしいこと。様々な思い、感情が表面には出てこないけれど内面に渦巻いている。そういった内面を掴み取り、暴き出して端正な言葉と文章で鋭く描写している。

私は向田さんの家族愛に基づいたキレキレの描写が好きなのだけれど、人間の心の闇に切り込んでくるところも流石だな!と思ってしまいます。

例えば今回再読していて、「獺祭」という言葉の意味を改めて認識しました。今の私には「美味しい日本酒」というイメージしか頭の中になかったのだけれど、「かわうそ」という作品の中で、妻である一人の女性のシタタカな一面を見せつけられた様な気がしました。「獺祭」という言葉を通じて、、、少し怖かった。

やはり、家族や人の心象が向田さん独自の多彩な輪郭で描かれている。場面展開の素早さも心地いい。途中で止められなくなります。

ウン十年前に読んだ時は「何だか不気味な作品集」というイメージを持っていたのだけれど、今回再読して過去とは異なる印象を持つことができました。

もちろん背景はウン十年前の昭和の情景です。しかし、人の心の有り様というのは変わらないものですね。

向田さんの作品は歳をとりません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月12日
読了日 : 2023年10月12日
本棚登録日 : 2023年10月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする