生麦事件によって引き起こされた事象と影響を描いた小説。僅か「6年間」が生麦事件から明治維新を迎えるまでの時間で、変転の早い現代ですらその短さに驚かされる。国法に抵触した1人の殺害事件をテコに、恫喝と暴力で利権の拡大をはかる英国をはじめとする西欧諸国、対して交渉の引き伸ばしに終始する幕府、そしてこの頃から露骨に独自の意志と行動と持ち始める薩摩と雄藩。ことに薩摩の、武力をもちながらも、同時に分析力、交渉力を併せ持つ様は、幕府の態度に比して頼もしく、薩摩という「国」が日本を先導する運命にあることが明示されているようでもあった。それも英国との戦争を契機とした藩論転換あればこそで、この事からもタイトルを生麦事件と銘打った意義がわかる。最後の方は、記述が史実の羅列になり、ドラマ感はうすれたが、薩英戦争のくだりなどは緊迫感があり、映像化したらかなり面白い物が出来そうな内容。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文芸
- 感想投稿日 : 2016年12月26日
- 読了日 : 2016年12月26日
- 本棚登録日 : 2016年12月26日
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