発想法 改版 - 創造性開発のために (中公新書 136)

著者 :
  • 中央公論新社 (2017年6月20日発売)
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感想 : 29
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1.著者;川喜田氏(故人)は、大学教授で文化人類学・民族地理学者。野外調査の経験を元に、情報整理と発想手法としてのKJ法を開発。科学研究だけでなく、今でも企業のアイデア作りや情報整理に活用されています。氏は、秩父宮記念学術賞、マグサイサイ賞等を受賞しました。
2.本書;著者が生み出したKJ法について、分かり易く解説した本。著者の名前から命名されたKJは、収集した多面的なデータを、発想としてまとめる情報整理法。この手法は、混沌とした情報を整理する中で、新たなアイデアを生み出す道具の一つです。「第Ⅰ章 野外活動(現場の科学)~第Ⅵ章 むすび」の六章立て。2019年2月時点で140万部を超えるロングセラーです。豊富な図解により、読者の理解促進と実際に活用できる内容になっています。
3.個別感想(心に残った文章を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
(1)第Ⅲ章 『発想をうながすKJ法;グループ編成』より、「(集団討議での発言エッセンスを記録した紙片群を)グループ分けする際に、(紙片群を)大分けから小分けへと進めようという我のある所には、ヒットラーやスターリンのような心がある。つまり、『自分の考え方が一番正しい』と決めてかかって、『民衆は俺の通りに従え』というのと同じである。小分けから大分けに進む心は、『民衆の語る所に耳を傾け、それに素直に従った結果、このようにまとまった』という事である。・・・この問題は、単なる喩え以上に、実は現代の民主主義の根本に触れる点なのだ」
●感想⇒(集団討議での発言エッセンスを記録した紙片群を)“大分け→小分けに進む”か、“小分け→大分けに進む”かは、ねらいで異なると思います。様々な意見を出し合って、何かを作り出す方法、すなわち発想法としては、“小分け→大分けに進む”民主的なやり方が良いでしょう。アイデアは論理的に引出すものではなく、発見するものだからです。それには、色々な考えを持った人々の知恵が必要です。しかし、問題解決については、“大分け→小分けに進む”事も良いと思います。誰かが仮説を立てて解決プロセス例を示し、それに対して様々な意見を出し合い、解答を探るやり方です。もちろん独裁的な議論にならない工夫は必要です。どちらにしても、重要な事は、独善的にならず、みんなで色々な知恵を出すという事でしょうか。
(2)第Ⅲ章 『発想をうながすKJ法;KJ法による文章化』より、「文章化は図解の持っている弱点を修正する力を持っている。・・その誤りを見破って、発見し、かつ修正の道を暗示する力を持っている。・・」図解の長所は、瞬時に多くの物事との間の関係が同時にわかる事である。・・文章化の方が図解化よりも物事の関係認知の方法として優れているかといえば、決してそうではない。文章化は今述べた点で図解化に勝る代わりに、物事を前から後へと鎖状にしか関係づけられないのである。・・この両者(図解化と文章)は、互いに他方の欠陥を補強する力を持っている」
●感想⇒上司に、提案書を見てもらった時によく言われた事があります。「図解は提案の理解には欠かせないが、図解だけでは不十分だ。自分の考えを、文章で付記しなさい」と。確かに、図解だけでは 、人によって解釈が異なりがちです。解釈のバラツキを減らす為に、コメントの重要性を教えられました。「図解化=多くの物事の間の関係が分かる、文章化=物事の関係のメカニズムが分かる」という解説は見事です。他人に物を伝える為には、“図解化と文章力”は、車の両輪なのですね。
(3)第Ⅳ章『創造体験と自己変革;日本人とKJ法』より、「日本人の現在の仕事のやり方の弱点は、情報処理を計画的にやらないという点ではないかと思う。自分の頭の中に体験的に積まれている狭い情報の範囲内で、カンを働かせてその雑然たる情報を統合的に処理する。・・しかし、その範囲を超えた複雑な情報処理に直面すると、面倒臭くてやろうとしない。あるいはどうしてよいのか放心状態にもなりかねない」
●感想⇒本書は約50年前に書かれた本なので、「日本人は情報処理を計画的にやらない」は、現在では言い過ぎかもしれません。よく言われる事です。成功体験を積んだ人間ほど、思い込みが強く、他人や客観的データを信用せず、自分の意見に固執すると。こういう考えでは、KJ法を使っても意味がありません。一人では体験出来ない大勢の複雑な情報を統合していかなければ、新たな発想に繋がるヒントは得られないでしょう。人と現場の生情報を信頼する心の有無が問われます。
4.まとめ;KJ法は、アイデアを出す為だけではなく、問題の発見・解決する為にも活用されます。企業では、品質管理の一環としても必要な手法で、今でも版を重ねている所以です。私が気に入っている点です。本書は、技術的な内容に止まらず、考え方や意義について、独自の見解を自分の言葉で分かり易く書いている事です。例えば「無の哲学。受け入れの心。こういう心がないと、本当の有の哲学も生きない」など。また、批判的精神も旺盛です。著者曰く、「(科学者・技術者の中には)現場の資料それ自身をして語らせて、仮説、理論までもってくるのではなく、外国の学者の学説、或いは自分の思いついた仮説、或いは何とはなしにできあがったシキタリを心の中において、それだけで問題を処理しようとする(者がいる)」と。私は、常々「自分の頭で深く考えなければいけない、熟慮する事に意味があるのだ」と指導された事を思い出します。本書は題名からすると、“how to”書と思うかも知れませんが、内容的には誰が読んでも得るものがある本です。(以上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年2月9日
読了日 : 2021年9月16日
本棚登録日 : 2021年9月16日

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