小説を読むということは、読者が追体験することだ。
加えて良い小説とは、読前と読後で読者の知識が増えたと思わせる小説だ。
その意味で言えば本書はまさしく、読み応えのある小説だ。
誰もが記憶に残っている某大手電機メーカーの不適切会計事件を題材としている。
事件の萌芽がバブル期の東証から語られている。
また、あれほど騒がれた事件がなぜ収束したのか。
後日談も語られる。
これは小説か、ノンフィクションか。
その境界を限界まで突いてくる。
元記者が描く事件象は余りにも現実味がある。
三田電機の不適切会計について、警視庁捜査二課第三知能犯捜査係を統括する小堀はある男を追っていた。
男は会計コンサルタントを名乗る、古賀遼。
事件を追うにつれ、古賀は三田電機のみならず、バブル崩壊まで遡り財界の影で暗躍していことが突き止めていく。
地銀や信金が破綻を繰り返した二千年代初期、企業も銀行も財政テクの巨額損失を隠すため、飛ばしという手法を使った。
隠せるものか隠したがる。
巨額損失という、いつ爆発するか分からない不発弾。
「古賀は絶対に逮捕起訴に持ち込めんよ」
情報筋が小堀に警告する。
事件を追う小堀の視点と、昭和後期から語られる古賀の視点。
その視点の交点に、不発弾が二重の意味だと読者は知る。
バブル崩壊から山一證券、北海道拓殖銀行に続く金融機関の経営破綻、そして現代に続くオリンパス、東芝の粉飾会計。
昭和後期から平成前期にかける財政事件を追体験し、現代にも不発弾が残されていると警告する。
- 感想投稿日 : 2019年1月5日
- 読了日 : 2019年1月5日
- 本棚登録日 : 2019年1月5日
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