舞台は1903年、紀州の新宮(本書では”森宮”と表記)の地においてアメリカ・インドで研究を積んで地元に貢献する医師として活躍しつつ、そのリベラルな政治姿勢から影響力を発揮する槙隆光という人物を主人公に、日露戦争開戦や鉄道の敷設など、様々な歴史の中で活きる人々の姿を描く長編小説。
主人公のモデルは、幸徳秋水らと共に処刑された大石誠之助という実在の人物である。実際、幸徳秋水自身も、新宮で講演に招聘されるというエピソードが本書では綴られ、幸徳秋水をマークする地元警察との緊張感溢れるやり取りなどは強く印象に残る。
総じて、新宮という決して日本の政治・文化的な中心から距離のある街において、日本が帝国主義へ強く傾いていく日露戦争の時期の世相を追体験できるかのような面白さに満ち溢れており、辻原登の優れたストーリーテリングの才能もあり、全く上下巻、飽きさせない流れを楽しめる。
個人的には、主人公の槙がアメリカ留学中に知り合ったジャック・ロンドンと、日露戦争への従軍医師として赴任した中国の地で再開する、というエピソードもあり、驚くと同時にロンドン愛好者として非常に印象的。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2022年3月20日
- 読了日 : 2022年3月20日
- 本棚登録日 : 2022年3月20日
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