村上春樹の新訳によるトルーマン・カポーティのデビュー作。カポーティについては学生時代に主要な作品を読んだ気がしていたのだが、本書は未読だったために、新鮮な気持ちで読むことができた。
本書は親に見捨てられて親戚に育てられた少年が、父親からの連絡によってその元へと戻るシーンからスタートする。このように、複雑な背景を持つ少年の姿というのは、あまり幸福な少年時代を送れなかったカポーティ自身の一種の投影にも近しい側面があるのだと思う。それもあってか、カポーティの作品における少年や子供が主人公の作品での、あまりの心理描写のリアルさには本当に驚愕させられる。
本書でいえば、自分自身が過去に忘れてしまったような幼少期の頃の記憶がふっと蘇るかのような強い煌めきが存在している。大人になれば誰もが忘れてしまうような煌めきを、ここまでかくも鮮やかに現前化することができることこそ、カポーティが作家としての天性の性能を持っていることの証左であろう。
村上春樹自らが「まるでジェットコースターに乗ってお伽の国を旅しているような感覚」と称した、物語展開のスピード感や、出てくる登場人物それぞれのエキセントリックさも見逃せない。いったいどのように物語が着地しているかの予想がつかず、幻想的な煌めきの中で着地していく読書体験というのは、本当にカポーティ特有のものであると強く実感した。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外文学
- 感想投稿日 : 2023年9月9日
- 読了日 : 2023年9月3日
- 本棚登録日 : 2023年9月2日
みんなの感想をみる