「あーそういうことね完全に理解した」というのは、古来から人類が望んできた世界認識の極点であろうが、実際にその台詞を口にするのはペテン師か気違いなのが相場である。それでも、本書を読むとすくなくとも料理という極めて限定的な世界においてではあるものの、冒頭の台詞を口に出したくなってしまう。
本書は、世界各地の様々な文化によって多彩な様相を示す料理の世界は4つの要素で説明できる、と豪語する魅惑の書籍である。4つの要素とは、火、水、油、空気であり、全ての料理は火を頂点とした4面体で説明できるという。
表紙の帯で示されたそのコンセプトを読んだときには、「そんなわけがない」と思いつつ、本書ではまず世界の様々な料理の調理法が丁寧に説明される。煮込み料理、天ぷら、ローストビーフなどの調理法の解説を読みつつ、本書の最後でようやくこの4面体のコンセプトが説明されるのだが、そのときにはこのコンセプトが見事に現実の料理の世界を説明するのにふさわしいものだということを実感してしまう。その語り口は、イタロ・カルヴィーノの幻想小説を読むかのような魅惑に満ちており、一瞬たりとも飽きさせない。恐ろしい世界認識の書物である。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
エッセイ・随筆
- 感想投稿日 : 2020年8月15日
- 読了日 : 2020年8月8日
- 本棚登録日 : 2020年8月11日
みんなの感想をみる