大雪山で幻のオオカミを探す男と山岳写真家との出会いから、この物語が始まる。
彼の父とも交流があった男は、殺人罪の刑を終え刑務所を仮出所したばかり。しかし、彼の容疑には冤罪の疑いがあり、その謎の解明と幻のオオカミ探しが同時に進行する。
山岳小説に、警察小説、それに動物小説が融合した贅沢な作品。
オオカミを探し求めての中盤までは、冗長な部分も無きにしも非ずだが、後半は冤罪を画策した犯人との攻防、雪山での遭難と、一転緊迫感を増して一気に読ませる。
ここでオオカミは、自然破壊を繰り返す罪深き人間と対極をなすものとして描かれる。昔は、オオカミがいて豊かな自然が保たれていたのに、文明に毒された人間はその大事なことを忘れていると。
「オオカミは大自然が人間社会に派遣した親善大使のような存在」と、登場人物に言わせる。
山岳小説の泰斗ともいうべき著者の自然観が、如実に表されている作品でもある。
また、写真家の父親の言葉として「奈落の上の綱渡り」が再三語られる。人生を例え、その綱とは何かを信じること、そして信じて渡るか臆して逃げるか、と。
「信じて渡る」爽やかな男たちの物語である。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
山岳小説
- 感想投稿日 : 2017年9月21日
- 読了日 : 2017年9月21日
- 本棚登録日 : 2017年9月21日
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