中華幻想―唐物と外交の室町時代史

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  • 勉誠出版 (2011年4月1日発売)
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室町時代の外交儀礼や対外観、唐物文化に関する論稿をまとめた論文集。本書の中核的テーマは、≪中華幻想≫と著者が名づける、対外観と自意識の総合、つまりは室町・戦国期日本の国際意識(コスモロジー)の解明であるとされる。本書に収録されている論文は、半ば一般向け、半ば研究者向けに書かれたものばかりであり、一般的な研究論文よりは、問題意識が明確で、読みやすいものとなっている。
本書では、従来の通説にとらわれず、等身大の室町時代の≪中華幻想≫を明らかにしようとしている。例えば、足利義満による明朝からの冊封について、義満の受封儀礼が尊大かつ高慢であったこと、また受封儀礼自体は閉鎖的・限定的な空間・人選のなかで執行されていたことを史料に基づき明らかにし、これまで言われてきた天皇制の超克や国内向けの権威確立という説を否定している。
「朝鮮国王使と室町幕府」という論稿の中で、朝鮮蔑視観について、歴史の可塑性、歴史における人間の主体性を信じる立場からは、そのような「鋳型」を的確に炙り出し、相対化していくことこそが求められるのであり、そういうものが未来に資する歴史学ではないか、という指摘がされていたが、歴史を研究する上でまさに至言であると感じた。また、同論稿の注で、当時の朝鮮からの通信使が「屈辱的な外交儀礼に甘んじていた」という著者の指摘に対し韓国側研究者が食ってかかってきたことについて、史料に基づいて事実は事実であると指摘し、「外交儀礼という政治的な場面において、受け容れ国側が上位に立つように演出することは、何時・何処の国でも行っているありきたりの事柄」であると言及したうえで、「現代の我々にとっては、そうした各国の自国中心主義を相対化して見ることこそ肝要であろう」と指摘していることも、歴史家としてあるべき態度だと感じた。
あと、個人的には、「永楽銭の史実と伝説」という論稿が興味深かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年6月11日
読了日 : 2013年6月30日
本棚登録日 : 2012年2月20日

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