ガラスの動物園 (新潮文庫)

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舞台は1930年代の世界恐慌下のアメリカ。哀愁と喪失を抱えながら“狭間の時代”を生きる、ある家族を描いた戯曲作品です。
過去に何度も舞台や映画で演じられ、多くの人々を魅了してきた本作。2021年末にはれて観劇することになり、まず原作に触れたいと思い手に取りました。

登場人物はウィングフィールド家――母親のアマンダ、姉のローラ、弟で語り部のトム、後半からトムの友人のジム、の以上4人。
ローラはハイスクール時代の出来事が原因で何に対しても消極的であり、ひきこもり生活をしています。唯一の趣味は大切にしているガラスの動物のコレクションを手入れすること。アマンダはかつて数多の男性に言い寄られ華やかだった社交場の思い出に浸る反面、自分のもとから去った夫に時折悪態をつきながら、ローラと明日の生活を案じセールス業に勤しみます。トムは密かに夢を抱えながらも家族のため、不満を募らせながら安月給の工場へ勤めに向かいます。それぞれが心に喪失を抱え、満たされない日々を過ごしています。

アマンダの個性は強烈で、行動思考の発端が“ローラのため”ゆえに、過干渉な母親です。ローラは母親の機嫌を損ねないよう振舞いつつ、その期待に応えられない自分の器量に落ち込み、極度に内向的な性格にさらに拍車をかけています。トムはそんなローラの気持ちを汲みながらアマンダを制することもありますが、そもそもトム自身を受け止めてはもらえず衝突するばかり。
父親不在のこの家族ははたから見るといびつで、とても不安定な様相です。「もっとこう振る舞えば相手にも伝わるし、事も上手く向かいそうなのに」とつい口出しをしたくなるほど不器用だとも思います。しかしそれぞれ不器用なりに、家族に対して愛を持っている。期待をしては裏切られ、自由を願いながらも責任を果たそうと務め、華やかな世界を横目に閉塞感あふれる我が家で生活を営む。不器用な家族愛のもと、絶妙なバランスでこの家族は成り立っています。
そんな家族のもとに“青年紳士”であるジムが訪れます。アマンダとトムの密かな思惑、ローラのかつての恋心と、ジムの登場は家族に大きな変化をもたらすことに。

トムは著者テネシー・ウィリアムズ、ローラは著者の姉、アマンダは著者の母親がモデルです。この作品自体、著者が愛する亡き姉へ捧げたと思われる自叙伝です。
多くの人はなぜジムのように、そしてガラス細工のペガサスのように自分の長所や特別な光るものに目を向けず、短所ばかりに目がいって身動きが取れなくなるのだろう。家族とは一体どのような集まりだろう。繰り返し考えることになりました。
物語は読みやすく、展開もシンプルです。しかし登場人物を掘り下げていくと、それぞれに共感できる部分があります。さらに、ラストへ向けての各々の決断には胸が張り裂けそうになりますが、同時に背景を考えるととても理解もできるし、そっと寄り添いたくなります。考えれば考えるほど多くの気づきを与えてくれる作品で、機会あればまた舞台も見に行けたらと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学
感想投稿日 : 2022年1月12日
読了日 : 2022年1月12日
本棚登録日 : 2022年1月12日

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