ブッツァーティの小説世界はいつも枠組みがはっきりしていて展開もわかりやすい。でも不条理文学と呼びたくなる。抑制の効いた端正な構造の上に、人間の歪みや愚かさや理不尽さが浮かび上がる。
1958年に刊行された短篇集『六十物語』から14篇を選んで訳したとのこと。好きなものをいくつか挙げると、まず表題作「神を見た犬」。神出鬼没の野良犬を村人が畏れ敬い始めるさまに乾いたユーモアが冴える。逆に背筋が凍るのは「竜退治」。後に退けなくなった人間がどんどん墓穴を掘り続けるのはブッツァーティの多くの作品に見られるモティーフだが、淡々とした語り口が却って登場人物たちの野蛮さ・愚かさを明確にする。「聖者たち」はそののどかさで本書の中では異彩を放っている。“そしてそれもまた神なのである”の繰り返しが、聖者たちの清澄な世界の支柱となる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
イタリア - 小説
- 感想投稿日 : 2014年7月5日
- 読了日 : 2014年7月5日
- 本棚登録日 : 2014年7月5日
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