悪人 スタンダード・エディション [DVD]

監督 : 李相日 
出演 : 妻夫木聡  深津絵里  岡田将生  満島ひかり  樹木希林  柄本明 
  • 東宝
3.62
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本棚登録 : 2670
感想 : 588
4

原作については未読。
妻夫木さんが自ら祐一を演じたい、と思ったというだけあって
迫真の演技だったし、他の役者陣も素晴らしく
現実を見ているような深みと疲れが残った。

祐一の人間性をもっと描いて欲しかったようにも思うが
視聴者の判断に委ね、淡々と描いたのもまた良かったのではないだろうか。
その中で出演シーンは短いながらも、バスの運転手やタクシー運転手も
あまりにリアルで心苦しくなるほどだった。
祐一と光代の些細で、傍からはわからないほどの
しかし代わり映えもせず、生きる意味を考える隙間もないような
疲れる日々の中で、ふとした瞬間に嫌気がさすような
身を切るような孤独が見ていて苦しかった。

祐一が犯人と特定されるまでの流れが殆ど描かれず
突然大事になっている印象で、
報道や灯台に大勢で押し寄せて来るところが唐突に感じたり
光代が祐一に戸惑いながら惚れていく理由も
いまいち描ききれていないように感じたり
ところどころ突っ込みたいところはいくつかあったが
そこはそれ、フィクションなので致し方ないとも言える。
九州の田舎町を舞台に、方言や田園風景などが素朴で
昨今親切にも無意味に描いてしまいがちな説明を
敢えてしないで済ませたり、脇役が関わり過ぎなかったり
どこまでも恰好悪く惨めさがとてもリアル。
母親に捨てられた苦悩や出会い系サイトを利用する昨今の若者
など、そうしたことを強調し世間のせいにし過ぎないところも好感が持てる。

全ての存在は唯一のもので、誰にもそれを奪う権利はなく
人を殺めるということは犯罪でしか無い。
だが、殺さないから、法に触れないからといって
若い女性をひっかけたり、真夜中の峠に蹴り出したり
老婆の貯金を騙しとったり息子を捨てたり
真夜中でも加害者の家族に人権はないとばかりに
静かな町に屯し報道の為だと言って人を追い回す。
気晴らしに犯罪を犯す者もいれば、追いつめられて思わず犯行に出ることもある。
それが『悪』であり『犯罪』なのか。
本当はそれは第三者には裁くことのできないものだ。

ふたりは切ない短い逃避行の中で
薄暗い日々の中で折角見つけたと思った光を手放したくなくて
必死にしがみつこうとする。
どうしてこうなってしまったのかと誰に言ってもどうにもならない
苦しい言葉を問いながら。

目の前が海であることが、行き先はないのだと感じてしまう祐一が、
海の側の灯台で光代と過ごした日々。
絶望を味わった灯台で再び味わったのは、果たして絶望だけであったろうか。
祐一が、戻らない光代の包まっていた毛布を抱きしめているシーンは
冒頭の携帯でムービーを見ているシーンとは対照的。
人が自分から去っていくばかりの人生で、
息せき切って傷を作って戻ってくる光代の姿が、祐一に何を与えたか。
何もない孤独さから、手に入れたのに手放さなければならない孤独さ
手放したくない強い気持ちが伝わってくるように思う。

『悪人』とはなにか。誰にとってのどんな意味であるのか。

ラストシーンの太陽を見つめる光代の笑顔と
祐一の何とも言えない切ない表情に
暗いストーリーであるのに心あらわれ
一筋の光を見るようだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 邦画
感想投稿日 : 2011年12月4日
読了日 : 2011年12月4日
本棚登録日 : 2011年12月4日

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