ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

著者 :
  • 集英社 (2015年1月19日発売)
4.11
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本棚登録 : 1347
感想 : 93
4

ヤンジャンアプリにて連載版を最後まで読了。
※最終話まで踏まえた感想。ネタバレ注意。

思った以上に血なまぐさい作品。コメディとウィットで紛れてはいるけれど、暴力が極まってグロテスクな場面もあるうえに、人間の暗部も見え隠れするので、子供や精神的に不安定な時にはおすすめできない。
とはいえ、アイヌを始めとする少数民族や新時代といったキャッチーさの加算を抜きにしても、これは一度は読んでおくべき!と言いたくなるくらいにはよかった。
何よりキャラクターが魅力的。次から次へと出てきて混乱するものの、少しずつ背景が掘り下げられて心情が浮き彫りになる場面は緻密で心にぐっとくる。じわじわと好きなキャラクターが増えていく仕掛け。
物語としては、序盤はアイヌ文化やクマの生態を紹介するノンフィクション要素が強くゆるゆると進んでいくが、中盤からは事態が一気に動く場面も増え、緩急の付け方が見事ではやる胸の内を抑えるのは難しかった。

すばらしい物語にはすばらしい悪があるもので、一筋縄では行かない鶴見篤四郎中尉の不気味な人間的魅力はいうまでもないのだが、個人的には単純にも見える天才的スナイパーの尾形百之助とマタギの谷垣源次郎がお気に入り。後半にいくにつれて、鯉登音之進少尉と月島基のペアも好きになった。
尾形は最後まで付き合えば単純なのだが、画風も手伝ってずっと真意が読みとれないミステリアスな存在で、孤独なヒールに救いあれと願わずにはいられなかった。阿仁マタギの谷垣はその実直さも、インカㇻマッを始めとする周囲との関係も癒やし。鯉登と月島ペアは自分の中で初めは鶴見中尉を深く描くためだけのキャラクターという位置づけだったのに、どんどん個性の頭角を現すものだから、ついにはふたりの今後をあれこれ思い描いて声援を送りたい登場人物同率第1位となった。
他にも、決める時は決める主人公の杉本佐一、無意識に「好き」がダダ漏れのヒロインのアシㇼパ、めんどくさいのに憎めない脱獄&脱糞王の白石由竹、気持ち悪いのに憎めない牛山辰馬など、面白いキャラクターが勢ぞろいで人と感想を言い合うのにもネタは尽きない。

アイヌに関しては不勉強で、このテーマそのものをどう受け止めていいか心の置所に困るというのが正直な感想。自分は本州の人間であり、迫害した側の後継という意識が強いから。またディズニー版のポカホンタスと同じで、なぜか少数民族の女性は前向きに文化の橋渡しを担う使命を担わされるのだなと複雑な気持ちになったり。それと同時に、東京で育った自分にとって京都や山梨といった他地域の文化に純粋な好意や関心があるように、本作に描かれるアイヌ文化にも純粋に魅せられた。

今回読んだのは連載版であり、連載版ならではの粗や勢いもあるが、その分、作者の描きたいものが強烈に迫ってくるようだった(ただし、真意を探るような読み方はしておらず、単純に楽しんだ)。
冷静になってみれば、あれほどの経験をした後で「大団円」はありえないだろうとツッコみたくもなるが、いや、「大団円」だからこそ繰り返し読みたくなる清涼さが担保されているんだと自分に言い返したくなった。

同日追記∶初恋が実らないリアル。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月6日
読了日 : 2022年5月6日
本棚登録日 : 2022年5月6日

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