禅、「持たない」生き方 (知的生きかた文庫)

著者 :
  • 三笠書房 (2010年7月20日発売)
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禅、「持たない」生き方

有馬賴底著
2010年8月10日
知的生きかた文庫(三笠書房)

著者は臨済宗相国寺派第七代管長。京都五山第2位の相国寺はもちろん、末社の鹿苑寺(金閣寺)と慈恩寺(銀閣寺)の住職でもある。東京の名士(久留米藩主)・有馬家出身だが、幼い頃に両親が離婚して九州に。小僧から修行して8歳で得度。有馬記念の有馬頼寧の従兄弟の子にあたる。「宗教者九条の和」の呼びかけ人。
彼の本を少しまとめて読んだ。

(メモ)

1982年、古都保存協力税騒動、拝観拒否(11寺)を決めた時に昔からよく知る旧大蔵省出身者が来た。「閉門すれば拝観料収入はなくだろうし、銀行も寺には金を貸さなくなる」と脅してきた。「私らが銀行の金をあてにしてると思っているのか?私らには托鉢がある。乞食をして食っていけばいいだけのことや!」。官僚退散、1988年古都税廃止。

「欲を持っちゃあいけない」などと考えるから間違える。ほしいという心をすっきりと働かせればいい。邪に働かせようとするから人を欺いたり盗んだりする。

座禅中に警策(きょうさく)で肩を叩くのは、緩んだ神経を一瞬集中させるため。一瞬でいい。

一週間の断食をしばしばする。水のみ。しんどいのは3日目、容赦ない空腹感。それが過ぎると頭が冴えさえに。体から食べ物が全部出て行って水だけに。毒が抜けるみたいに爽やかな日々。

修身なんていうわけのわからんことを教えて、「一億火の玉」と焚きつけ、帝国主義に走っていった苦い経験があるのに、型にはめることのバカらしさ、間違いが分からんのだろうか。

法話をするために長い時間をかけて、文献や資料を読み込んだりすれば体がしんどくなる。しかし、そこで横になったりすることはまずない。書をしたり、お茶をしたり‥…。それまでとはまったく別のことをやる。すると、疲れたという感じは、きれいさっぱりなくなる。要は体の疲れではなく、心の疲れ。

人は理性に邪魔される。理性とは執着(しゅうじゃく)。人から悪くいわれてカッとくるのは“賢い自分”に執持しているからだし、咎められて腹が立つのは“正しい自分” への執着があるから。それがどうしても捨てられないが、それもまた人なんです。

「いまだ木鶏たりえず」の故事。
紀渻子(きせいし)という人が王に命じられて、闘鶏を訓練することに。訓練開始から10日が経って、王が「もう闘えるか?」。
紀渻子は「まだです。いまは無間にやる気を見せているだけですから…」
さらに10日後。「まだです。ほかの軍鶏の声や姿にいきり立つ状態ですから…」
また10日。「まだです。相手を睨みつけ、闘志を見せますから…」
再び10日後。
「ものになってきました。ほかの軍鶏が鳴いても、まったく動じる様子がありません。まるで木鶏(木彫りの鶏) のように、徳が身についた状態です。ほかの鶏はみんな闘うことなく、後ろを向いて逃げ出すでしょう」
周囲の鳥がしかけても、木鶏のように微とも動じることなく、その威厳で相手の闘志を萎えさせてしまう。まさしく心技体が完璧に整った姿。
(幡大介の長編時代小説「大富豪同心」はこれのパクリか?!)

禅の修行は厳しい。なかでも、12月1日~8日までの臘八大接心(ろうはちだいせっしん)は群を抜く。釈迦が瞑想して悟りを開いた時期に同じ体験をさえるもの。8日間は眠ることも休むこともいっさい許されず、食事以外の時間は老師の講義を聞き、坐り続ける。坐禅をはじめる合図も終える合図も、すべて鐸(たく)と鐘、言葉は発せられない。その音で本堂と坐禅堂、食堂の三カ所をめぐるだけ。
22歳以降、13回経験。
坐禅堂の窓という窓は開け放たれ、雪が舞い込むという過酷な状況の下での修行。体力的にも精神的にもつらさがひしひしと迫ってくるのは、三日目くらい。そこを乗り切れるのは、20人、30人がいっしょに修行に取り組むから。一人では萎えそうになる心も、隣に仲間がいることで持ちこたえられる。
脱落したらそれでおしまい。その寺の道場には二度と入ることはまかりならん、というのが禅の世界の決まりごと。しかし、の四日目をすぎると、つらさはふっと消、五日日以降は日を追うごとに、精神性が高まってくるのを感じる。感覚がまさに研ぎ澄まされるという状態になります。実際にはそんなことはないが、体が浮くような感じになる。
その浮遊感は、体が極限状態に置かれ、心から余計なものが全部削ぎ落とされて軽くなるからだろう、と思う。空っぽになった自分を実感する瞬間だ、といっていいかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年3月29日
読了日 : 2019年6月21日
本棚登録日 : 2021年3月29日

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