戦争中毒: アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由

  • 合同出版 (2002年10月10日発売)
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感想 : 20
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 九・一一の後、アメリカはイスラム世界に対して攻撃を始めた。対テロという名目によって。決して人気の高くなかった(何しろ最後まで当選が不確定だったのは記憶に新しい)ブッシュ大統領がここぞとばかりに「われわれは十字軍だあ!」と叫んで支持率を伸ばしたのだった。そしてアフガニスタンを攻撃した。あのテロの犯人の中にアフガニスタン人はいなかったにもかかわらず、である。理由は明確である。アメリカの嫌いなウサマ・ビン・ラディン一人を殺すためである。そのためにどれだけのアフガニスタンの人々がアメリカの攻撃によって、そしてその後の内戦によって生活と生命を奪われつづけているのである。「~つづけている」と書いたけれど、このあいだ福岡県人権研究所の創立総会の時にペシャワール会の活動でアフガニスタンで医療活動をしている中村哲さんの記念講演を聴いたのだけど、アフガニスタンに平和は戻っていないのだそうである。あの空爆の前がいちばんよかったのだと言う。そして今もアフガンは悲惨な状態にあるというのだ。しかし、イラク戦争で世界はアフガンを見捨てつつある。
 いったいアフガン攻撃でアメリカは何を得たのであろうか。そしてアフガンの民はなにゆえに殺されなければならなかったのか。おそらくほとんどのアフガンの民は貿易センタービルのテロの存在すら知らなかったと思われる。タリバーン政権下で彼らはテレビすら見ていなかったのであるからだ。
 そうしたらイラク戦争だ。この戦争の理由は何だったのだろうか。記憶の隅にある限り大量破壊兵器かなんかが隠されているということだった。で、フセインはそれをまったく使わずにどっかに消えてしまってイラクはずたずただ。もっともフセイン時代に不遇であった人々は解放されたようだが、フセインにしてもビン・ラディンにしてももとはアメリカが育て上げた人物だということは周知のことだ。つまりはアメリカにとって彼らは用済みだったということだ。
 そうやって近代戦争の歴史を振り返ると必ず絡んでくるのがアメリカだということだけは確かなことだ。本書はそうしたアメリカを戦争中毒とみなし、その理由を模索していくマンガだ。週刊誌大でやや大判、七〇頁程度の読みやすい厚さだ。まさにお手頃の絵入り本だ。初版は一九九三年の湾岸戦争の直後に刊行された。しかし、「あの9月11日の事件が起こり、ブッシュ/チェニー政権に「世界に対する終わりのない戦争」を始める口実を与えてしまった」(「日本のみなさまへ」)ことが対テロ戦争新しい章を書き加えさせ改訂版として刊行にいたったということである。
 基本的にマンガであるので、誰でも気軽に読める。但し、マンガでもこういう内容だから文字は多いぞ。
 アメリカがいろいろな正義を主張したとしてもすべてがアメリカの権力者と企業の利権に基づいていること、そしてそのツケが世界の小国のなも無き人々の生活と生命であり、アメリカ国民の貧困な福利厚生(これはアメリカ人向けに書かれている)にまわっていることなどが、明瞭に説明されている。
 ごじゃごじゃ言い訳がましい国際政治の本を読むよりも戦争中毒の構図が手に取るようにわかるのが日頃じっくり社会的な本を読むことのできない中学生や高校生にはぴったりかもしれない。そういう意味で教師も生徒と一緒に読んで語り合うとなかなかの教材にもなると思う。


★★★★ アメリカではあまりに真実に近いんで少数派なんだろうな。日本版の「戦争やりたがり中毒」の本も欲しいと思うんだけど、誰かつくってくんないかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治
感想投稿日 : 2010年4月5日
読了日 : 2010年4月5日
本棚登録日 : 2010年4月5日

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