常野シリーズ2作目。
第134回直木賞候補作。
シリーズ1作目でも登場した、無尽の記憶力をもつ春田一家の物語。
舞台は国内外にきな臭い気配が漂い始める20世紀初頭の、東北のある集落。
他者の記憶や感情を、そのまま「しまう」春田一家の力とはなんだろう?
現代ではスマホなどの記憶媒体がその役目をしているのだろうか。
彼らのような存在が、自分や大切な人の記憶をまるごと受け容れ、預かってくれることで、(当時の)人々は生きた証を残せたような安心感を得たのだろうか。
しかし、それがどんなものであれ、力がある、ということは、それゆえの使命を背負うものだ。春田一家の記憶力や、遠目、遠耳などの力は、普通の人の預かり知らぬことを見、知ってしまう。だからこそ、時には自らの命に代えてでも、人々を守らなければならない宿命にある。
常野の人たちの、ある種の諦念のような静けさは、そこにあるのだと思う。
語り手の少女が、春田一家のことをこう言い表している。
「世界は一つではなく、沢山の川が異なる速さや色で流れているのでした。~彼らはどうやらそういう流れの一つらしい~私たちとは異なる川で生きている」p117
異なる川ではあるけれど、私たちのすぐ側を流れていて、時に交わり、また離れていく存在。その安住の地は、果たしてどこにあるのだろうと考えると、寂しさが胸をよぎる。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2023年1月17日
- 読了日 : 2023年1月15日
- 本棚登録日 : 2023年1月17日
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