蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

著者 :
  • 集英社 (2005年6月3日発売)
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常野シリーズ2作目。
第134回直木賞候補作。

シリーズ1作目でも登場した、無尽の記憶力をもつ春田一家の物語。

舞台は国内外にきな臭い気配が漂い始める20世紀初頭の、東北のある集落。

他者の記憶や感情を、そのまま「しまう」春田一家の力とはなんだろう?
現代ではスマホなどの記憶媒体がその役目をしているのだろうか。
彼らのような存在が、自分や大切な人の記憶をまるごと受け容れ、預かってくれることで、(当時の)人々は生きた証を残せたような安心感を得たのだろうか。
しかし、それがどんなものであれ、力がある、ということは、それゆえの使命を背負うものだ。春田一家の記憶力や、遠目、遠耳などの力は、普通の人の預かり知らぬことを見、知ってしまう。だからこそ、時には自らの命に代えてでも、人々を守らなければならない宿命にある。
常野の人たちの、ある種の諦念のような静けさは、そこにあるのだと思う。

語り手の少女が、春田一家のことをこう言い表している。
「世界は一つではなく、沢山の川が異なる速さや色で流れているのでした。~彼らはどうやらそういう流れの一つらしい~私たちとは異なる川で生きている」p117

異なる川ではあるけれど、私たちのすぐ側を流れていて、時に交わり、また離れていく存在。その安住の地は、果たしてどこにあるのだろうと考えると、寂しさが胸をよぎる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年1月17日
読了日 : 2023年1月15日
本棚登録日 : 2023年1月17日

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