世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上下)合本版(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ああ村上春樹さんってやっぱ天才やわと思った。些細な表現に至るまで描写が凄くて贅沢で、あとなんか洒落ていると思った。残念ながら自分は読解力無さすぎて一度読んだだけではストーリーを理解できてないのだけど、それでもこの世界観に心ときめいた。

  • 意識と無意識の二重性や、左右の身体(脳手目)の分裂、私と僕、世界と主人公などの二項対立が、二つの物語を章ごとに行き来する形で進んでいく。いわゆる世界系のはしりか。無意識の中の心と記憶などのテーマがフロイト脳神経的に語られる。おもしろいのは、登場人物誰にも固有名がない。映画、小説、音楽の引用もかなり具体的でマニアックだ。
    組織(システム)の計算士、記号士、数字化された情報の奪い合い、図書館、夢読みなどのキーワードで、SFとファンタジーが混じる。
    無意識の正確さ、意識は28歳までに確定する、35歳の人生の修正不可能性などの実存的な心情描写で惹きつける。何もない人生を引き受ける。ニヒリズム的ではあるが、作品の80年代の日本の雰囲気を表しているといえる。影は固定された意識の核、僕は殻を作った少年時代、そして現実の私ということになるだろう。
    "人は自らの欠点を正すことはできないのだ。人の性向というものはおおよそ二十五までに決まってしまい、そのあとはどれだけ努力したところでその本質を変更することはできない。"
    "私の人生は無だ、と私は思った。ゼロだ。何もない。私がこれまでに何を作った? 何も作っていない。誰かを幸せにしたか? 誰をも幸せにしていない。何かを持っているか? 何も持っていない。家庭もない、友だちもいない、ドアひとつない。勃起もしない。仕事さえなくそうとしている。"
    "アイデンティティーとは何か? 一人ひとりの人間の過去の体験の記憶の集積によってもたらされた思考システムの独自性のことです。"
    "目的のない行為、進歩のない努力、どこにも辿りつかない歩行、素晴しいとは思わんかね。誰も傷つかないし、誰も傷つけない。誰も追い越さないし、誰にも追い抜かれない。勝利もなく、敗北もない"
    "しかしもう一度私が私の人生をやりなおせるとしても、私はやはり同じような人生を辿るだろうという気がした。"
    "もっと若い頃、私は私自身以外の何ものかになれるかもしれないと考えていた。"
    "しかしそれでも私は舵の曲ったボートみたいに必ず同じ場所に戻ってきてしまうのだ。それは私自身だ。"
    "私にはわからなかった。絶望なのかもしれない。ツルゲーネフなら幻滅と呼ぶかもしれない。ドストエフスキーなら地獄と呼ぶかもしれない。サマセット・モームなら現実と呼ぶかもしれない。しかし誰がどんな名前で呼ぼうと、それは私自身なのだ。"
    "私の人生の輝きの九十三パーセントが前半の三十五年間で使い果されてしまっていたとしても、それでもかまわない。私はその七パーセントを大事に抱えたままこの世界のなりたち方をどこまでも眺めていきたいのだ。何故かはわからないけれど、そうすることが私に与えられたひとつの責任であるように私には思えた。"
    "私にはそれを最後まで見届ける義務があるのだ。そうしなければ私は私自身に対する公正さを見失ってしまうことになる。私はこのまま私の人生を置き去りにしていくわけにはいかないのだ。"

  • 読後感のじーんとする良い小説だと思うが、どうしても登場人物が必要以上にカッコつけて虚勢を張っているように思えてしまう。作中に度々出てくる映画や音楽や酒などの固有名詞も安っぽく感じられる。ハルキストからはお叱りを受けるかと思うが。

  • おもしろかった!名言多い

  • 街とその不確かな壁を読み終えたあとの再読。前者を読みながら村上春樹って何歳?と思うほど若く感じたが、こちらを読むともっと若かった。同じ舞台、同じセリフ、それが別物として配置され、調和され、物語化されていくところが面白い。作家は嫌じゃないのだろうか?要らぬお節介をしてまうが。

  • もっとも読んでる春樹作品。博士いいね。春樹作が安定しているのは、ストーリーの神話性が骨格を支えているからかな、などと思う。

  • 村上春樹の小説を初めて読んだのだが、なかなか印象深い作品で、長い割にストレスなく読み進めることができた。

    独特な言い回し、登場人物の思考回路から『村上ワールド』を感じた。

    中盤あたりだったか、『ハードボイルドワンダーランド』と『世界の終り』の繋がりが見え始めたところには、読みながら興奮を覚えた。

  • 村上春樹の小説の中でも、一番お気に入り。二つの物語が交互に繰り広げられるので、テンポ良く読み進められます。

  • 村上春樹作品の中では一番好きです。

    SFチックな「ハードボイルドワンダーランド」と、ファンタジーな「世界の終わり」の両方のストーリーが並行して進行する。
    ハードボイルドワンダーランドは脳科学的な話が展開される。
    対立する「組織」と「工場」。
    主人公は「組織」に所属しており、何らかの情報を暗号化する「計算士」という仕事をしている。「シャッフリング」というトンデモ技術を使う。
    話が進むにつれて、「世界の終わり」とは主人公の中にある意識の核である??ということが判明する。正直難しくて、一度通読しただけじゃ完全な理解は出来なかったのですが。。。。。
    「世界の終わり」という想像の世界で生きることは主人公の「永遠の死」を意味するのではないか?それでも、最期では「世界の終わり」の中の僕は自分の影と決別をし、「世界の終わり」という想像の世界で生きることを選択します。
    これがどういう意味なのか。
    「世界の終わり」という世界の中で僕は自分の生きる意味(彼女の心を探す)を見つけ、それが大変な道で、物事の道筋から外れたことであることを理解しながらも選ぶ。ハードボイルドワンダーランドでは、主人公が自分の死を悲観することはなく、むしろ「自分の失ったものを取り戻せる」と祝福を感じる。
    現実世界に生きるだけが物語の正解じゃない、「世界の終わり」という、牧歌的な想像世界で生きることを否定しないということが、結局言いたいことだったのかなー。

  • 2024.04.05

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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