本格小説(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2005年11月27日発売)
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本棚登録 : 813
感想 : 75

うん、素晴らしかった。深く満足。

骨子を、身も蓋もないひと言で言ってしまえば、「上流階級に属する人たちのゴシップ話」だと思う。
しかし、その骨子に肉付けされている装飾がもう本当に見事で、骨子の下品さが完全に隠されている。
極論を言えば、この世で起こる様々な「ものがたり」は、その殆どが単なるゴシップでしかない。
個人的な、極めて狭い範囲での出来事であって、当人たち以外にとっては、単なる覗き趣味を満たす対象でしかない。

けれど当然ながら、それらは単にフィクショナルな「ものがたり」ではない。
当人たちにとっては、嘘偽りのない純粋な「真実」そのもの。
その「真実」を、傍観者でしかない読者に、どれだけリアルなものとして感じさせることが出来るか。
それが、「小説家」としての力量そのものが問われる場面そのものなのではないかと思う。
そして、その能力が高ければ、「ものがたり」が作り話であったとしても、読者はリアルなものとして感じ、受け止める。
それは、読者が「もうひとつの現実」を体験するという事に他ならない。

それを踏まえると、本書は「本格小説」という名に相応しい作品だと思う。
圧倒的なまでに繊細で美しく、流暢で滑らかなその筆力は、読者を完膚無きまでに幻惑する。
ぐいぐいと引き込まれて、あたかもその場に身を置いていたかのような錯覚すら感じた。
語り手が変われば、ここまで強烈な印象を読後に残すことは無かったはず。
それどころか、ぼくは最後まで読み進めることすら出来なかったと思う。

本当に切なく、どこまでも悲しいお話。
けれど、だからこそ、所々で訪れる幸せな瞬間が、本当に大切で素晴らしいものとして輝く。

とにかく、読んでいる最中の没頭感が半端じゃなかった。
読後、深い溜息をつきながら、傑作だなあ、と心から思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月13日
読了日 : 2009年1月22日
本棚登録日 : 2018年11月13日

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